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夢の中 14

とはいえ、少し冷静になってみると。


「……俺、ちょっと神経質になってたのかもしれませんね。単なる偶然か、暇人の悪戯か、いずれにせよ大した意味のないものかもしれないのに……」


むしろ、そっちの可能性のほうが高いんじゃないかな、って思えてきた。


「二回目に交番に届けたとき、お巡りさんが教えてくれたんです。なんかね、道に突飛なものを落としておいて、それを顔ブックとか(イプシロン)とかのSNSに上げさせて、人を特定するような輩がいるんですって。それを元に、何か犯罪……ストーカーしたり、空き巣に入ったりとか──」


SNS、俺自身はやってないからいいとしても、うちの顧客の皆さんに、その危険性を啓蒙してほしいと頼まれたんです、と言うと、ああ、と真久部さんは軽くうなずいた。


「僕も聞いたことありますよ。餌を垂らして、引っ掛かったら釣り上げてって、まるで魚釣りみたいですよねえ」


「魚釣り……? そうですね。わかりやすいです!」


お年寄りに説明するとき、使わせてもらおう、『魚釣り』。遊びなところも似てるかも、と言うと、真久部さんは胡散臭い笑みで同意してくれる。


「その釣りなんだけどねぇ。先日行ったお葬式で、知り合いから似たような話を聞いたんですよ。彼もまあ、釣られたというか──あの場合は自ら釣られに行ったというのが正しいのかなぁ。故意に落とされた突飛なものじゃないんだよ、キノコだったんです」


「キノコ……?」


いきなり、キノコ? 頭の中にはてなマークが。


「そう。キノコ。マンションの植え込みにキノコが生えてるのを見つけたんですって。前の日まで全然そんな気配もなかったのに、唐突に。白くて丸い、わりと大きな……オニフスベっていうらしいんですが、何でも屋さんは見たことありますか?」


「白くて丸い……ああ、巨大マシュマロみたいな?」


大仏のご隠居さんちの庭に<発生>してたのを、見つけたことある。空気の抜けたゴムボールが転がってるのかな? と思ったら、キノコだった。ご隠居も、同居の息子さんご夫婦も、昨日までこんなものなかったのに、と驚いてた。ご隠居はそういうキノコを子供の頃に見たことあるって言ってたけど、自分ちの庭に生えるとは……と目を丸くしてた。


あれはなかなかのインパクト。そう言うと、真久部さんもですよねぇ、とうなずいてくれた。


「僕も画像を見せてもらったけれど、なかなかの異世界感でしたね。

とにかく珍しいし、見た目も面白いものだから、知り合いはさっそく写真に撮ってその画像を自分のSNSに投稿したらしいんだよ。そしたらね──」


特定されちゃったらしい。


「背景からわかったりするんだそうだよ。僕もそういうことに疎いからよくはわからないんだけど、例えば、ググルンストリートビューを見れば、知ってる場所なら「ああ、あそこか」ってわかったりするでしょう? 一番の決め手は、どうやらキノコ画像の隅に一部映っていたマンホールだったそうですが」


「マンホールですか……?」


道路や、顧客様のお庭や駐車スペースなんかで普通に見掛けるものだけど、市の名前が入ってたり、柄物や、たまにカラーの絵入りもあったりする。確かにあれは個性的かもしれないけど、でも、一つしかないわけじゃないだろうに。


「本当にごくごく一部しか映ってなかったそうだけど、見る人が見たらわかるものらしいんだ。拡大したり、その周囲の舗装を見たり」


「舗装? そんなもので……」


怖っ! と慄いていたら、赤の他人のSNSを見て、その個人を特定するのを趣味にしてる人もいるらしいですよ、と真久部さんが言うから、俺はもっと怖くなった。


「でもね、本当にただキノコだけだったら、知り合いはそこまで煩わされるようなことはなかったと思うんだよねぇ……」


溜息付きの微妙な笑みで、真久部さん。


「え、どういうことですか?」


「彼、その少し前にナンバーズだったか、ロトだったかが当たったらしいんです。かなり高額だったっていうから、ロトなのかな? その当たりのカードを、SNSに上げちゃったんだって。本名じゃないし、大丈夫だろう、ってね」


誰かに言いたい、自慢したい、でも実生活ではそんなこと出来ないから、匿名のSNSなら、他の情報を隠したシートのみなら、と思ったらしいんですよ、と困ったように。


「……王様の耳はロバの耳」


つい呟くと、真久部さんが吹き出した。


「そう、そうだね、確かにその通り……! 何でも屋さんは、やっぱり面白いなぁ」


ウケてる。まだ肩が震えてる。スベるよりいいけど、そんなにウケられても……と微妙な気持ちでいると、まあまあ、と宥めるようにお菓子をくれる。あ、バターサンドだ。


「『王様の耳はロバの耳』と、王様の秘密を知った床屋は、地面に穴を掘ってそこに向かって叫んですっきりしたけれど、穴を元通り埋めたところから葦が生えてきて、『王様の耳はロバの耳』と言い立てるんでしたっけね。

今回の知り合いの場合は、王様と床屋の一人二役やったってことかなぁ? ロトが当たったよ! と叫んだ穴がSNSで、穴は底なしで『ロトが当たったよ!』と、谺した声が不特定の誰かの耳に届く──」


キノコキノコ書いてたら、植木鉢のひとつに白いキノコが生えてびっくり(いきなり!)。オニフスベではありませんでした。


八月下旬から忙しくなり、今月九月から生活が激変。遅筆なこともあり、なかなか投稿できません。それでも毎朝ちまちま書き溜めておりますので、これからもどうかよろしくお願いいたします。

SNS、宣伝用にX(Twitterの頃から)を始めたほうがいいかなぁ、と思いつつ、活動報告すらなかなかなので、当面はやっぱり無理かな……。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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