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夢の中 10

「にゃん」


ぎゅ、と踏みつけられ、俺はうめいた。猫の小っちゃい足の踏ん張りは、けっこう痛いし重い。

足音も立てず、居候はそのまま下に降りたようだ。


「……」


起こしてくれたのかな、あいつ……。そう思いながら時計を見る。午前二時。また同じ時間。


俺、寝付いたらたいてい朝まで滅多に目が覚めないんだけどな──。


悪夢も、今日で三日め。何でだろうな。

昨夜は早めに布団に入ったし、ビールも飲んでないし、エアコンだってケチってない。扇風機はタイマーで止まってるけど、今はタオルケットを被っていてちょうどいい温度だ。

どこか痛くなるような寝返りも打ってない。


「……」


寝不足は、熱中症の遠因になる。昨日、野島さんとそんな話をした。

だから、俺は眠る努力をしよう。目覚ましが鳴るまで。





グレートデンの伝さんと、ボクサーのレオンくん、巻き毛ミックスのクドリャフカちゃんの散歩を終えた。アスファルトが朝から熱気を発するようになってきたから、わんこたちの散歩はもうちょっと早めにするか、時間短めにしたほうがいいかもしれない。


それにしても暑いな、朝から暑い。もうずっと暑い日が続いてるけど、今日は昨日より身体が重いな。微妙な寝不足が堪える──。帽子と保冷剤と、今日の水分補給は砂糖もちょっと入れた塩麦茶。眠気覚ましに酸っぱい塩飴も舐める。熱中症対策はバッチリのはずだけど、気を引き締めていこう。


さて、蝉の抜け殻探しは伝さんとの散歩のときにクリアしたから、早川さんちにお届けに行こう。入院中の子に見せてあげたいんだって。ご本人はご高齢で足に不安があり、探しに行くのは難しいそうだ。ただ歩くだけならいいんだけど、と苦笑いしてた。うん、この暑さだし、何でも屋にお任せさ!


「昨日の今日で早かったわね。ありがとう、助かるわ」


早川さんが喜んでくれる。ちょうどこれからお見舞いに行こうとタクシーを呼んだところだったんだって。


「ああ、これはアブラゼミね」


「え? 抜け殻で蝉の種類わかるんですか」


「そうよ。今はスマホで何でもわかるけど、昔は採ってきた抜け殻を並べて、辞典で調べて……」


懐かしそうに早川さんは笑う。虫への興味が高じて理系の大学に行って、生物の先生になったんだそうだ。


「今日お見舞いに行く子は心臓が悪くて、もうずっと入院してるの。私が膝を悪くして入院してたときに仲良くなったのよ、孫よりも小さい子なの。娘に辞典を持ってきてもらって、見せてあげながら虫の話をしたら、目をキラキラさせながら聞いてくれてね……」


病室に生きてる蝉はダメだろうけど、抜け殻くらいなら、こういう容れ物に入れて実物を見せてあげられると思ったのよ、と俺が預かっていた透明アクリルの小さなケースを示す。


「きっとその子も喜びますよ! 俺も子供の頃は夏といえば蝉だったなあ。弟と一緒によく採りに行きましたよ。たまに見つける抜け殻はたからもので。二人で集めるだけ集めて──」


缶に入れて、すっかり忘れてたのを後から母に見つけられて、怒られた話をしたら、ウケてくれた。


「子供あるあるねぇ。私の場合はお線香の箱に虫ピンで留めてたわ。母さんもやっぱり嫌な顔はしていたけれど、何も言わずにいてくれたのよ。うちは父のほうが虫嫌いでね、文句は言われたけど……、それでも止めろとはいわないでくれたわねえ」


後から思えば、ありがたかったわ、と朗らかに笑う。


「お隣の小父さんのほうが、よほど煩かったのを覚えているわ。女の子なのに虫なんて、ってね。お隣の子は男の子で、私より一つ二つ年下だったんだけれど、蝉もクワガタもカブト虫もダメで……」


「あー、羨ましかったのかもしれませんよ。本当はご自分の子供さんといっしょに、虫取りに行きたかったのかも」


「そうかもしれないわねぇ。男の子でも女の子でも、好きな子は好きだし、苦手な子は苦手なんだから仕方ないのにね……それ以外にもご近所のことで、色々言う小父さんだったわ──」


早川さんはふと言葉を止め、俺の顔を見た。


「そういえば……何でも屋さん、一昨日だったかに大金を拾ったんですって?」


「あ、はい。でも、どうしてそれを?」


昨日は野島さんにも言われたけど、何でこんなに知ってる人いるんだろう?


「その小父さんで思い出したんだけど……この町内にも噂好きの人がいるのよ。何でも屋さんって、お仕事でこの辺りもちょくちょく来るでしょう? だから顔だけ知ってるって人も多いのね。その知ってる人が大金を拾ったってヒソヒソする人がいるの」


悪いことしたわけでもないのに、と早川さんは眉を(ひそ)める。


「拾ったものを警察に届けて、何が悪いのかしら」


「──落とし主もすぐ現れたし、俺、権利も放棄したんですよ……」


警察での手続き中に落とし主が現れたんです、と俺が言うと、早川さんは微笑んだ。


「そうなの。いいことしたわね、何でも屋さん。──宝くじの高額当選者を羨むみたいな心理なのかしらねぇ。つまらないことで妬む人もいるから、気をつけて」


もしかしたら何か言う人もいるかもしれないけど、あまり気にすることはないわ、と力づけてくれる。今の時代だと、人の噂も七十五日どころか、七十五時間くらいかもしれないわよ、と悪戯っぽく言うから、俺も笑顔になった。

このところわりに調子よく投稿できていたのに、間が空いてすみません。

夏休みの宿題並みににやりたくないけれど、夏休みの宿題並みにやらないといけないことがありましてね……。

続き、頑張ります。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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