表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
407/415

夢の中 7

そういえば、歌ったり踊ったりする動画をシェアするサービスもありましたっけ、とうろ覚えの知識を披露すると、お巡りさんはうなずいてくれた。


「そういうのを、不特定多数の人が見るんです。これって、本当はとても怖いことなんですが、やってるほうの危機感が薄いんです……。匿名だから、自分のことなんかどうせ誰も気にしてないからと思ってますけど、どこでどんなやつが投稿主に関心持つかわからないんですよ」


「ストーカー的な……?」


「それもありますね。これからどこへ行くとか、今どこにいるとか投稿されたのを見て、わざわざ投稿主の顔を見に行ったりするのもいます。写真付きなら、なおさら特定が簡単です」


「……怖いし、気持ち悪いですね」


「でしょう? でも、その怖さや気持ち悪さをほとんどの人が甘く見ていて──運が悪いと犯罪に巻き込まれたりします」


だから、リアルタイムな情報は控えたほうがいいんですが、どこへ行く途中とか、乗る電車が来たとか安易に呟いてしまう人も多くて……、とお巡りさんは嘆く。出掛けている=家に居ない、で、空き巣に狙われたりとかもあるんだそうだ。


「今回、何でも屋さんはそういうことなしに拾得物を交番に届けてくれたわけなんですけど、もしSNSをやっていて、普段から画像を上げたりしてる人だったらどうですか? 『なんか変な本が落ちてた』とかタイトルつけて、その写真を投稿してたと思いませんか?」


「そうかもしれませんね……」


いつもやってることなら、抵抗もなにも無いよなぁ。


「で、今日もまた同じような本が、変なところに──ええっと、似つかわしくない? そんなところに落ちていた」


うんうんとうなずきながら、と俺は一般人に危機感を持たせようと、言葉を探しながら懸命に語ってくれるお巡りさんの話を真剣に聞く。


「なら、きっとそれも投稿したでしょうね。それでですが、もしこれが、SNSに投稿させることが目的で置かれた物だったとしたら? 怖くないですか?」


「……」


言葉の意味を、よく考えてみた。


「えっと、誰かが罠を仕掛けて、そこに掛かったみたいな? この場合、本が餌? ですか?」


何者かが、その場にあったら変だな、と思えるようなもの()を仕掛ける。()()()()を見つけた誰かが、何だこれ、という気持ちを誰かと共有したくて、SNSに投稿する。その何者かはSNSを監視していて、仕掛けた罠に引っ掛かった者をネット上で特定し、リアルでもその個人を特定する──。


「そういうことになります。匿名で、どこに住んでる誰ともわからなかったものが、餌に食いついて仕掛けられた罠にはまる……つまり、画像(エサ)をSNSに投稿してしまうことによってですね。……道の真ん中に大根が落ちてたとか、松の木にパイナップルが引っ掛かかってるとか、そういう人の興味を引くもの、それが餌です。自分で自分自身の存在を、情報をネット上に晒すことになってしまうんです。」


犯罪者って、普通では思いもつかないようなことを考えつくし、普通ならやらないこともやっちゃうんですよね、と続ける。


「今回のこの拾得物がそういう目的で置かれた物なのか、それとも、ただの落とし物なのかはわかりません。だけど、用心に越したことはないといいますか。SNSやってないなら、何でも屋さんはいま言ったような心配はないと思いますけど」


「はい──」


「でも、何でも屋さんは、お年寄りのお客さんも多いでしょう? こういったSNSに潜む危険性を、啓蒙するのに協力していただけたらありがたいと思いまして」


笑顔の可愛いお巡りさんは、最後はいかつい強面の警察官の顔を見せて、よろしくお願いします、と頭を下げた。





交番に寄り道したあとは、予定通りにいったん事務所兼自宅に戻った。


コンクリート打ちっぱなしのこのボロビルは石窯のように熱いけど、エアコン入れたまんまの部屋は涼しかった。居候の三毛猫のためではあるけど、自分のためにもなってるな。自分一人だと、居ないときはついついケチッてしまいそう……。でもそんなんだと、ちょくちょく帰ってきたときに暑すぎて休憩にならないだろう。


でなくても、俺、一回熱中症でやられてるからなぁ。あのときは古いエアコンが壊れたからしょうがなかったんだ……。我慢してたら暑くて食欲不振でお外で熱中症。まあ、外だったから良かった。すぐに救急車呼んでもらえたし。倒れたのがこの部屋だったら一人で死んでたよ。


あのときは散々元義弟の智晴に怒られたし、元妻にも怒られたし、娘のののかには泣かれた。みんなに、いろんな人に心配と迷惑を掛けて……。夏場はちゃんとエアコンを使おうと思ったんだ。


ん?


コンクリート床の上に設けたなんちゃって畳エリアに座り込み、首に掛けた手拭いでガシガシ汗を拭く俺を、三毛猫のやつがじっと見ている。


「何だ? 餌か?」


違うみたいだ。ただ、じっとこちらを見ている。俺の顔、というより、その向こうを──。

拍手ありがとうございます。ポイントも増えてとてもうれしいです。ありがとうございます。

昨日は日間12位。本当に……? と思いつつ、うれしいので明日も続きを投稿できるよう、がんばります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ