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薄の神様 15

ブックマーク、「いいね」をありがとうございます。

今週はつづきを投稿するのは無理かな…と思っていましたが、それを支えに頑張ることができました。




   古主様にこの地に置かれてから 長い時間が経った

   我の手足たる薄をよく育て、古主様にもお褒めいただいた

   そんな頃、どこかの村から人がやってきた


垣間見た出来事が、あまりにあの子に惨すぎて、衝撃を受けた僕がただ無言でいると、あの子はまた語り始めました。



   その男たちは 我の薄を刈らせてほしいと願った

   そのかわり より強く元気に育つよう世話をすると 



あの子の薄、茅は、他の茅の出来が悪い年でも、良く育った。それに気づいた近隣の村々は、自分たちの茅場に不作が続いたある年、ついにあの子の統べるこの地にやってきた。


   

   その時に知ったのだがな 

   我の薄、茅は怖れられていたそうだ


 どうして?


   我は古主様のお力で薄になった

   願ったとおりの頑丈な身体をいただいたのだ

   我自身である薄を 我は季節に合わせて繁らせた


   ただそれだけだったというに

   元の村の生き残りがどう吹聴したものか

   我は人を嫌う薄と忌まれていたのよ


 ……


   元は忌み地 草も生えぬ岩地

   古主様のお蔭でそうでなくなったというのに



あの子の言ったことを、僕はよく考えてみました。そして、伯父の教えてくれたことを思い出したんです。



 えっとね、その人たちのこと、よく分からないけど……

 いじめっ子ってね、自分がひどいことをするものだから、

 みんなが自分と同じことをするって思うんだって。


 だから、自分がいじめられるって思ったとき、

 ものすごく怖いんだって。

 それって、自分がひどいことしてるって、

 わかってるからなんだって。


   そうか……


 きみは何もひどいこと、していないのにね。


   そうだな



寂しげな表情を浮かべたあの子に、僕は聞いていました。



 きみは、その人たちのこと、嫌いだと思ったことはないの?


   元の村の者たちのことは ただただ恐ろしかった

   恐ろしい者たちだから 恐ろしいことをするのだと思った

   ただ 母は

   母のことだけは


   ……


   母は 

   世の中にはきっとやさしい人もいる と言っていた

   己と己の子を 村の者たちに疎まれ 蔑まれながらも


   きっといるのだろうな 母のような人が

   だから我は人を嫌うことはない

   

 そっか。きみはやさしいんだね。



お母さんがやさしい人だったから、きみもやさしいんだね、と素直な気持ちを告げると、あの子は微笑んでくれました。


   我はもう 人を恐れることはない

   それもあるのだろうな

  

   だから


   我の薄を刈りたくば 勝手に刈ればいいと 

   我は放っておいた

   春に萌え出し 夏には伸び

   秋になれば尾花を垂れて

   冬には枯れてまた春を待つ

   いくらでも刈ればいいと 我は放っておいた


   刈りたいと申し出てきた者たちは

   いくつかの村の長たち

   

   我を茅神 芒の神と呼び 祀り上げ

   大勢で我の薄の手入れをし始めた


   年に一度の祭   

上げられる祝詞

   御饌が供えられ

   その前で神賑わいの飲み食いし 踊り騒ぐ


   我は見ているだけで楽しかった

   人のときには 暗い小屋の中

   祭の笛や太鼓の音を 遠く聞くだけだったゆえ


   それだけで良かったのに


   ある年 やせ細った子供を連れてきた

   泣きじゃくる子供を追い立て 

   帰ってくるなと叱りつけ

   また追い立てる


   我のされたことと同じ


 ひとみごくうにされた子なの?


   ああ そうだ

   我は求めておらぬのに


求めても、欲しくもないのに連れてきたのだと、あの子は言いました。


   止めさせようと 我は薄を騒がせた

   恐ろしい顔つきで 子供を追い立てていた者たちは

   立ち止まり 怯えだし

 

   そして逃げて行った 子供を置いて


   我のような子なのかと

   どこか人と違う 蔑まれる見かけの子なのかと

 

   そう思い よく見てみたが

   髪の色も 目の色も ごく普通の子供 


   子供はきれいな格好をさせられていた

   祭のときだけ見るような 華やいだ衣


   子供は泣いている


   何が起こっているのかと 訝しく思い

   我は手足の先に意識を向けてみた

   

   我の坐すこの薄原のふもと

   いつも祭のとき 御饌を供え 

   神賑わいの飲めや歌えをする場所に

   村々の長や世話役どもが畏まっている


   その先頭に額づく神主が祝詞を唱え

   その中で我に願っている



    我等の子を一人 御前に捧げ奉らん

    そのことをもって

    我等の上に降りかかる

    一切の禍事を払いのけ給え

    悪しき病を払いやり給え



   悪疫が流行ったが故に

   それを我に鎮めてくれと願い

   鎮める代償に 子供を一人捧げると

   そう言っているのだ


   我にそのような力はない


   だというのに悪疫を鎮める力が我にあると

   あの者どもが信じるのは

   

   母が殺され 

   我が追い立てられる元となった

   あの悪疫が

   我の仕業であったと

   我には悪疫を操る力があると

   そう思われているということ


   我は悲しかった

   未だにそのように思われているとは


   ああ だから

   かつての我がされたように

   追い立てた子供を供物にするというのか

   あの時 古主様のお力により 我が薄に変わり

   忌み地が薄の原に変わった

   同じようにすれば

   何かが変わり 万事が良くなると考えたのか

   

   自分たちに都合よく


   そんなわけもないのに

   我は悪疫をもたらしはしなかったし

   鎮めもしなかった

   そんなことは埒のほか


   我に出来るのは

   きつい夏の日差しにも負けず 頑丈に

   我自身である薄 茅を保つことだけ

   我は古主様に定められた 茅の守り主

   ただそれだけのために

   この地に坐すもの


   この地に坐し

   来たり過ぎ行くものを見てきた

   悪疫もまた同じ

   来たり過ぎ行くもの


   我が手出しできることではない   

 

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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