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薄の神様 13

「いいね」をありがとうございます。

俺は酷い顔になっていたようだ。真久部さんが困ったように小さく笑って、大丈夫、と言うように軽く首を振る。


「ただ、僕は饅頭を全部食べたわけではなかった。伯父はそこに希望を見出して、様々な対策をしてくれたようです。やたらにしょっぱい……まあ、実際ただの濃い塩水だったんだと思いますが、そんなものも飲まされた覚えがあります。──医者と弟夫婦に怒られていましたが」


それでも、()()()伯父さんに懐いていた真久部さんは、その塩水を飲んだそうだ。


「すると僕は急に眠くなって、寝入ってしまった。そういった成分は入っていなかったということですがね。そして──僕は夢を見たんです」







見上げた空は、太陽は見えないのに不思議に明るかった。


白い雲がどこまでも広がっていて、ところどころに淡い金色や薄い茜色が入り混じり、明るいのにちっとも眩しくない。


ああ、あの場所だ、と思い──ふんわりふわふわ輝くあの薄の穂は、やっぱり空に上って雲になるのかな、なんてことをぼーっと考えていました。



   そなたには、やさしい父御(ててご)母御(ははご)、伯父御がいたのだな



気づくと、薄の中にあの子が立っていました。


 

 うん、そうだよ。きみのお父さんとお母さんは?


   父は知らぬ。母は身罷った。


 みまかった、って何?


   死んだということだ。


 ……


   昔のことだ。……泣かずともよい



そんなふうに言うあの子は、一緒に遊んでいたときとはなんだか印象が違っていて、大人っぽくなったように感じました。



   そなたも、他の子供たちと同じように

   無理に連れて来られ、ここに棄てるために

   追われたのかと思ったのだが


 ちがうよ、知らない怖いおじさんに車に乗せられたから、逃げたんだ。

 きみがいてくれたから、僕、こわくなかったよ。



ありがとう、と言うと、あの子は寂しそうに笑った。



   初めての妻問いであったというのに



つまどい、って何? とたずねたけれど、あの子は答えてくれなかった。その代わりのようにさあっと風が吹いて、あの子の真っ白な髪が揺れ、薄も大きく揺れたから、僕はそちらに気を取られた。白い雲と、それに混じる茜色と淡い金色は、夕日を浴びたあの子の色かもしれないなあ、なんてことをぼーっと思っていると、ようやく言葉が返ってきました。



   詮無き事よ。そなたが男子だと気づかなかった我が悪いのだ

 

 僕もきみのこと、女の子だと思ったよ。



あの子はやっぱり笑っているだけでした。



   ……古主様がおっしゃったのだ

   寂しくば、いつか妻問いをせよと

   我は元は人であった故に、一人では寂しかろうとな


 ふるぬしさまって?



様、がついているからには人の名前だと思って、僕は聞いてみました。



   遠い昔からこの地に(いま)すお方のことよ

   そうだな、そなたには偉い神様と言えばわかりやすいか


 神様?


   ああ。このような姿に生まれて虐められ、

   母を殺され、追い立てられ、死んだ我を

   古主様は憐れんでくださったのだ


 ……なんでそんなひどいことされたの?


   村に悪疫が……ああ、悪い病気が流行ってな

   それを我のせいにされたのよ

   母は巻き添えだ

   人であるのに人ならぬ姿の我を産んだせいで



夕焼けの色を凝らせたような赤い目が、どこか遠いところを見ているかのようでした。



 むずかしいよ。きみは人でないなら何なの?



本当は、村に悪い病気が流行ったのが、どうしてこの子のせいになるのかが分からなかったんだけれど、それをどう言えばいいのか、その時の僕にはわからなかった。



   何であったのだろうな?

   村人たちにとっては、我は化け物だったのだろうよ

   このような、人と違う色を纏って

   日差しを嫌い、夜に外を歩く

  

   ああ、そなたもその目の色で、苛められたりはしていないか?



あの子がとても心配そうに言うから、僕は慌てて首を振った。



 ううん。変わってるね、って言われるけど、

 いじめてくる子はいないよ。

 だってね、僕のこの目は、僕の伯父さんといっしょなんだ。


 日本ではほとんどの人が黒い髪に黒い目をしてるけど、

 外国に行ったら、金色の髪に青い目の人もいるし、

 肌の黒い人もいるし、いろんな人がいるんだよ。

 テレビで見たことない?


   てれび、とやらは知らぬ

   我は見たことも聞いたこともない

   だが、そうか。そういうものなのか……

   では、そなたは追われることはないのだな

   人身御供にされることも



ひとみごくう、の意味がわからなかったけれど、さっき言ったような、無理やりこの場所に連れて来られる子供のことだと、あの子は教えてくれました。



 怖いおじさんが僕を連れてきたけど、

 じゃあ、僕もひとみごくうなの?


   いや。そなたはただ攫われてきただけだったのだ

   ……季節外れゆえ、おかしいと思うたに

   久しく人に会うことがなかったせいか、寂しくて

   我はそなたのことを

   望みもせずのに、我に勝手に捧げられてきた

   いつもの人身御供だと、勘違いを



あの子は苦笑いをした。



   だが、そなたが人身御供でなくてよかった

   寂しい悲しい子供でなくてよかった

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
― 新着の感想 ―
[一言] おもしろかったです! 転ばせ桜とお地蔵様とおにぎりまるの話が特に好きです。 続き楽しみです。 シリーズ読んで待ってます!
2023/06/02 11:54 退会済み
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