慈恩堂の出戻り対策 3月1日。 前編
整理整頓のため、「何でも屋の<俺>の四季」からこちらに移します。元のタイトルは「ある日の<俺> 3月1日。慈恩堂の出戻り戦略 前編」です。全く同じ話なので、既読の方はスルーしてください。
午前中は古道具屋・慈恩堂にて棚卸の手伝い。
今日は気温が高かったせいか、作業してる間にじんわり汗をかいた。
毎回、入れたり出したりするだけだった文机が見当たらないので、店主の真久部さんに聞いてみると、売れたという。
「や、でもあれ・・・また出戻って来たりしませんか?」
そうなんだ。どっしりとした桜の材の、素人目にも良い物と分かる文机なんだが、俺が知ってるだけでも三回売れて、三回ともほぼ三日以内に買主かその家族が返しに来る。
理由は知らない。聞いたこともない。てか、聞かない方がいいことが世の中にはたくさんある。
「今回は、大丈夫だと思いますよ」
にっこり笑う店主。
「へ、へえ。それなら良かったですね!」
晴れやかな笑顔が、何故だか恐ろしい。そのまま話を流そうとしたのに、知ってか知らずか店主は続ける。
「私もね、あの文机にはちょっと困ってたんですよ。店に置いておいても色々あるし」
色々。いろいろ、ね。その色々について訊ねて欲しそうな空気を感じたけど、俺は空気読めないふりをする。
そんな俺に、店主は残念そうに溜息をついてみせた。
「・・・話甲斐のない人ですね。まあいいですけど」
だったら話すなというのに、店主はまだ続ける。めげない人だ。
「何というか、基本にね。戻ってみたらどうかと思いついたんです」
「基本、ですか・・・?」
何故ここで基本? 意味分からん。
「あれって、文机じゃないですか」
「はあ・・・」
だからそれは知ってるってば。
「ということで、今回ご購入されたお客様には、あることを試してみるようにお願いしたんです」




