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薄の神様 11

「いいね」もありがとうございます。

「……わからないです。でも、遊ぼって言われたら、何も考えずに仲間に入れるかも」


そんなふうに言えるのは、色んな人種がいて、いろんな体質の人がいるという認識が当たり前の、今の時代に生まれたからかもしれない。外のことは何も知らない、狭い世界が全てだったであろう時代の子供たちを、責める気にはなれなかった。


俺の言うのを黙って聞きながら、真久部さんはもう一枚、銘々皿を取り出した。包装紙から取り出したお菓子を、丁寧に盛り付ける。小さなマグカップには甘いココア。ちゃぶ台の端に置いたそれを、少し寂しそうな笑みを浮かべて眺めている。


「怖がられたり、そこにいるのにいないもののようにされるのは──知らないふりをされるのは、寂しいものです。大人でも、子供でも、神様でも……」


「……」


中には、単純に神様が見えなかった子もいるかもしれませんがね、と軽く言ってみせる。


「あの子には、もうひとつ変わっているところがありました。赤い目の、そのもう片方の目。それはは、淡く青みがかって見えた」


俺はまじまじと真久部さんの顔を見た。正確には、目を。黒褐色と、榛色の……。


「真久部さんの目と、似ているところがあったんですね」


それは、左右で色が違うオッドアイ。この人のはよく見ないとわからない程度だけど、珍しいといえば珍しいし、変わっているといえば変わっている。


「僕もね、今は違いがわかりにくいけれど、子供の頃は薄いほうはもっと色が薄くて、珍しがられたものです。遊び仲間の子たちは慣れてくれたけど、小学校に上がると他所から来た子たちに気味悪がられて……薄いほうの色もだんだん濃くなって、そのうちわかりにくくなるよ、と伯父は慰めてくれたけど」


真久部さんの苦笑い。この人の伯父さんは、両目の色が甥っ子とお揃いだ。だから、そのうちわかりにくくなるというのは、説得力があっただろうと思う。


あの、真久部さんと似てはいるけど、とうの昔に大人になったというのに、未だ子供の無邪気な残酷さを忘れていないとでもいうような、何ともいえない悪戯っぽい瞳を思いだしていると、そういうところは伯父に似ず、常識人に育った甥っ子は言った。


「僕はだから、よけいあの子の見た目が気にならなかった。あの子はだから、よけい僕のことを気に入ってくれたのかもしれません」


「……」


見掛けが人と違うせいで、人と違う扱いになる。疎まれたり、逆に崇められたり。違うことは罪ではなく、ましてや罰でもないけれど、子供の頃の真久部さんもオッドアイのせいで、いやな目にも遭ったことが他にもきっとたくさんあるんだろう。


「あの子が<神様>だというのは、行方不明中の僕を探してくれていたあの地域の人たちの話からわかりました。──不吉なので、さすがに父と母の前では言わなかったそうですが、知らせを聞いて慌てて来てくれた伯父が小耳に挟んだそうです」


「不吉……?」


「“知らずの茅場”には、薄の神様がいると。それは片目の神様で、子供をさらって薄にしてしまうのだと」


「確かに、それは……親なら、そんな状況でそんな話は聞きたくもないですね……」


娘のののかがそんなところで姿を消したら、俺、半狂乱になる自信ある。


「僕を攫ったのは神様でも何でもない、ただの人間の男だったんだけどねぇ」


「そういえば、そいつはどうなったんですか? 逃げたんですか?」


子供の真久部さんが行方不明になったのは、誘拐犯のせいじゃないか。だから真久部さんは逃げて……あれ? 神様、は保護をしたつもりだったって、真久部さんは──。


「男は、僕が逃げたときの様子と、僕に逃げられたときの態度が不審すぎたようで、前後を軽トラと乗用車に挟まれたまま足止めされ、警察に通報されて、そのまま捕まったようです。──僕と一緒に線路を描いて遊んでいた子たちも、僕が車に引っ張り込まれたところを目撃したらしく、親に知らせ、親が警察に通報して、となって、すぐにあの茅場に逃げ込んだ子供と結びついたようで」


「厳罰にしてやりたいですよね」


何目的だったかなんて考えたくもないけど、俺も子を持つ親として強い憤りを感じる。真久部さんのご両親、伯父さんだって、皆同じ思いだろう。


「余罪がいくつもあったようで、結局、終身刑になったそうだよ」


後から伯父が教えてくれましたが、と続ける。


「その後の……薄の中での体験のほうが強烈で、攫われた記憶のほうはどこかぼんやりしていたけれど、ふとした時にあの男の蛇のような目つきを夢に見て、魘されて。それが長い間続いていたので、伯父は僕を安心させようとしてくれたんでしょう。──実際、あの男はもう刑務所から出て来れないよと聞かされて、僕は心が軽くなったように思ったものです」


怖い思いをした僕と、被害に遭った他の子たちのぶんまで、仕返ししておいたから、と今思えばとてもいい笑顔で教えてくれましたっけ、と少しだけ遠い目になる。……きっと伯父さん、持ち前の不思議な力で犯人に何かしたんだろうな、と俺もちょっと遠いところを見たくなった。その男には、一切同情はしないが。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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