双子のきょうだい 後日談15
子供の、ひそひそと耳をくすぐるような笑い声が、ぼうっとした頭の奥でこだまする。
「どう・・・しました、 大丈夫ですか? また狛犬にからかわれましたか?」
少し焦ったような百日紅氏の声が、どこか遠くから聞こえる。すぐ近くにいるはずなのに、広い洞窟の中で反響する木霊のように、ぼわん、ぼわんと捉えどころがない。
変なの。と暢気に考えながらも、俺は無意識に呟いていた。
「計略どおり──」
「は? 今、何と?」
今度の声は、普通に聞こえた。心配そうに俺の顔をのぞき込んでいる百日紅氏。えっと、俺、今何て言ったっけ?
一瞬の夢の間に、二頭の狛犬が踊っていたのだけは覚えてる。
それから、えっと・・・
「もしかしたら弟さんは、最初からその神社で修行する運命だったのかもしれません。でなければ、何年か先、享楽的な生活のために身を持ち崩すことになっていたのかも」
──狛犬たちは、それを防ぎたかったのかもしれません。
そんなふうに、俺は答えていた。何でそんなことが言えるのか、自分でも分からなかったが、今回の一連の事件、もしかしたら、狛犬の計略だったのかもしれない、という思いが唐突に湧いてきたんだ。
狛犬兄弟の、掌で転がされる百日紅氏の末弟。
・・・肉球でお手玉されたのかもしれないな、うなされていたという夢の中で。
もう一度、阿吽の狛犬をしっかり撫でて、百日紅家の屋敷神様に改めて挨拶の拍手打って。
例のスゴイ車でお抱え運転手さんに駅まで送ってもらい、今は電車の中。鈍行から急行に乗り換え、あと少しで大きな駅に着く。そこから私鉄に乗り換えれば、ほんの数駅で俺の住む街だ。
ほうっ、と大きく溜息が漏れる。
疲れたような、気の抜けたような、そんな感じ。安心した、ってのもあるかな。いろいろ怖かったよ、百日紅家。今度またあの家に届け物を頼まれたらどうしよう・・・
慈恩堂店主の、ほんわり人が良さそうに見えて、そのくせ、どこか食えない笑顔が脳裡をよぎる。
どうしよう、じゃないだろ、俺。次は断ろう、断固として! いくら依頼料を弾まれても──通常の倍、いや、三倍くらい積まれても、二度と行かない! 多分行かないと思う・・・行かないんじゃないかな。ま、ちょっと覚悟はしておけ、って誰に言ってるんだ、俺。




