双子のきょうだい 後日談14
「弟は、そのまま神職になるための修行をすることになりそうです」
三日三晩もうなされるって、どんな怖い目みせたんだよ、狛犬! と一人慄いていた俺は、百日紅氏のその言葉にびっくりして、思わず聞き返した。
「修行? 神職って・・・そこの神社のですか?」
「そうです」
「でも、お話を聞いていると、その、失礼ながら、あまりそういった職に向いていらっしゃらないような」
俗塵にまみれてるというか、娑婆っ気(っていうのも変かな)たっぷりっていうか、罰当たりで、とても神社だの寺だので大人しくしてそうに思えないんだが。
「向いていなくても、弟はそこで頑張るしかないんですよ」
百日紅氏は、何かを諦めるように深い息を漏らした。
「先ほど、当家の狛犬は弟のことを『怒ってはいるが、見捨ててはいない』と申し上げましたが、今後、もし弟が勝手にその神社から出て元の生活に戻ろうとすれば、確実に見捨てられ、命を取られるでしょう。それだけのことを弟はしてしまいました」
「う・・・」
この百日紅家に代々伝わる、家宝のような狛犬を売り飛ばそうとしたんだもんなぁ。子供の頃、遊んでもらった(?)恩も忘れて。
「狛犬は、弟を座敷牢から連れ出し、縁の神社に置き去りにしました。つまり、そこで心を入れ替え修行をして、生涯御祭神に仕えよ、という意味です。狛犬のくれた、それが最後のチャンスだということでしょう」
「そうですか・・・」
何て言ったらいいのか分からない。だけど──
「赤の他人の、おれ、いえ、私が言うのもおかしなことだとは思いますが、狛犬は弟さんのこと、本当に気に入ってるんでしょうね。そうでなければ、見捨てるも何も、まず許してはくれないような気がします。更正する機会を与えてくれるなんて、破格の扱いのような・・・」
一週間ものあいだ、彼らの領域(?)に閉じ込めて、こちらの世界に戻してからは三日も高熱で苦しめて。怖い考えだけど、殺そうと思えば、いつでも殺せた、はず。それをしなかったというのは、狛犬兄弟は百日紅氏の末弟のこと、そうとう気に入ってるってことだと思うんだ。
そこまで考えた時、突然耳鳴りがして、俺は座ったまま頭を抱えこんだ。
──この子は、このまま俗世間に置いておくと、身を持ち崩してしまうから。
──自分で命を縮めてしまうから。
──僕たちが保護することにするよ。
──そのためには、死ぬほど怖がらせておかないとね。
くすくす、くすくす。




