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冬の金魚 51

短いですが、キリがいいので…。

「もしかして、こういうことですか? 『蔵が騒ぐからには、たった今、何かが盗まれたに違いない』って。家鳴りの最中(さなか)、慌てて現場に駆けつけてみれば、そこに叔父さん──自分の弟がいる。だから弟が何か盗んだんだ、って思い込んだ……」


俺もこれまで二回ほどあの蔵に入ったけど、中には大物小物、色んなものが雑多に詰め込まれていた。ほとんどは箱入りだけどたまに裸のもあったりして、そこからひとつくらい何かが消えても、蔵本人(?)以外にはわからないと思う。


「たとえば撒き散らされたビーズの、一粒くらいが無くなってもわからないみたいに、何が盗られたのかわからないけど、何かは確実に盗まれたって考えたんだとしたら──」


「ビーズ一粒、ですか……」


細かいですよね、と真久部さんは相槌を打ってくれる。


「普通はそんなの、よっぽどきちんと管理してるとかじゃないかぎり、無くなっても気づかないし、証拠の品でも出て来ないかぎり、他人に疑いをかけられない。でも、この場合は“悪魔の証明”というか……」


だって、蔵が騒ぐから。それまで蔵が騒いだときは、必ず何かが盗み出されてたから。


「そうですねぇ……」


うなずいて、万引きゲートに引っかかってしまったみたいなものだものねぇ、と言う。


「疑いの目で見られてしまうのは否めない。叔父さんと家神様のせいで、見えない金魚が逃げてしまったとしても、そんなのは人間からすれば誤作動の範囲なんだけど」


「疑いを晴らすのは、難しいですよね……」


全てはもう遠い過去の、俺は顔も知らない人のことなんだけど。甥っ子のために一所懸命だったのに、と思うと心が塞ぐ。


そんな俺に、ふわっと微笑むような気配がして、言葉が続く。


「でもね、その場には当時の家長だった御祖父様も駆け付けたはずなんです──。だから疑いは、間もなく晴れたと推測しますよ」


「そうなんですか!」


思わずパッと顔を上げると、真久部さんの軽く笑んだ瞳と出会う。


「ええ。蔵の家鳴りを収めるには、鍵を管理する家長が一喝する必要があるので……何でも屋さんも、同じような場面に出会ったことがあるでしょう?」


「そういえば……」


二度目の水無瀬家訪問の折り。水無瀬さんと一緒に収蔵物整理の前段階、ブロック分けをしつつ段ボールインデックスの設置をしてたら、長持ちに入ってた呪物……なんてその時は知りもしなかったけど、招き猫を見つけて──気がついたら二人とも、知らない間に中にあったはずの箱を抱えて、外に立っていた。


当然のことながら、蔵は騒いだけど、水無瀬さんの苛立ち混じりの一喝で静かになったっんだ。


「あのとき水無瀬さん、『儂は当主じゃ!』って蔵に向かって叫んでました。──訳のわからないことがあって、なのにあんな家鳴りが起こって不気味で、逆ギレモードに近かったと思いますけど……」


正しい対処になってたんですね、と言うと、偶然でしょうがね、とうなずく。


「御父君の代で、代々伝えられてきた口伝が途切れていたようですから」


「……」


良かったぁ、水無瀬さんがキレてくれて。そうでなけりゃあの家鳴り、いつまで続いていたことやら。真久部さんが検証するまで収まらなかったかもしれない。


いくら何でも、それは御近所迷惑──というか、『局地地震?』とかで大騒ぎになってしまう。


「疑いは、晴れたはず。それでも御父君が、そこに入れば誰でも泥棒になってしまう“泥棒製造機”と蔵を呼んだのには、一応、それなりの理由があるようなんですよ」


「え? それはどんな?」


勢い込んでたずねると、真久部さんは読めない笑みに微妙な影を落とす。次の言葉まで少し間があった。


「何でも屋さんは知らないでしょうけど──水無瀬さんの御父君と叔父さんの名前ね。紘一と紘二というんです」


コウイチとコウジ? 連番タイプの名前だなぁ。だけど、それがどうしたっていうんだろう?


「ああ、似た名前だけど、双子ではないそうです。彼らは一つ違いの兄弟だったとか」


無意識にそう考えた俺の心を、読んだように真久部さんは言った。


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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