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冬の金魚 43

う、時間がない。

今日も短くてすみません…。


※2018年12月30日推敲。1492文字→1608文字

「家紋のせいか、水無瀬家の道具類には魚の意匠が多くてね……。気づきませんでした? 母屋の鬼瓦。あれも魚なんですよ」


「……なんかのっぺりしてましたね」


ぱかっと開けた口の、両脇ににょろんと髭があったな、そういえば。ちょっと目が離れてるけど、でも普通の鬼瓦だと思ってた。ああいうのってデフォルメいろいろだし。


「あれは魚、というか鯉の正面顔だから」


「鯉、ですか──」


鯉は嫌だ。鯉怖い。思い出してしまう、真久部の伯父さんのペット(・・・)。どうしようもない悪食の──。


丑の刻参りにヘビーローテーションされたという桜の木、その材で作らせたという鯉のループタイ。いつ見てもイキイキ艶々してるのに、どこか小暗いところがあり、そのくせぎらついたようなぬめりがチラチラしてて、イメージは呪いのブラックオパール……。


「怖がらなくても大丈夫ですよ。あれはただの鬼瓦なので」


少しだけ困ったように、苦笑する真久部さん。……はっ! いけない。こんなところでトラウマ・トリップしてちゃ。<魚>と聞いてから、努めてアレを思い出さないようにしてたのに──。


「いやあ、はは。どうりでおデコのあたりがつるんとしてると思いましたよ!」


などと言い繕いつつ、さりげなく額に滲んだ汗を拭く。──鯉の形をしたものだからって、その全てがあんな節操無しと同じってことはないさ。うん。


「そうですねぇ」


俺のトラウマを理解してくれているらしい真久部さんは、無理して浮かべた笑顔には触れず、そのまま先を続けてくれた。


「ほかにも、硝子戸にメダカを彫りこんである水屋箪笥や、鮎のお盆、カジカの箸置きに、山女の茶筒、鯉の衝立、瓢鮎図(ひょうねんず)のレプリカ屏風とか……御飯茶碗は金魚柄だそうです」


「な、なかなかの魚尽くしですね」


「ええ。だから蔵の中にもそういう道具類がたくさんあるんだよ。今回、鳥獣戯画図の魚版みたいな大型屏風も発見してねぇ……。メインの柄でなくても、ほぼワンポイントでなにがしかの魚が添えてあって、視える人にはなかなか楽しいか──怖い水族館状態だったと思いますよ」


「……」


もし、俺の目に真久部さんの言うような妖怪めいた魚たち……特に鯉が視えてしまったら、後ろも見ないで走って逃げると思う。

 

「そんな状態の蔵の中に、呪物の招き猫が持ち込まれてしまったわけです」


猫に鰹節、そこらじゅうにピチピチお魚。


「獲物、取り放題じゃないですか……」


「んー、そうでもなかったと思いますよ」


初めの頃は、と続ける。え? どういうこと?


「呪物として作られたとはいえ、あの招き猫だって最初から強かったわけじゃないんだよ。単体だったら、早々に毒を薄められてしまったと思うなぁ……それぞれ力は小さくても、魚はたくさんいたからね。道具類についている魚たちは、水無瀬家の家宝の皿に描かれた金魚の、眷属のようなものだから」


そ、そっか。魚たちは見えない応援団みたいなもんなんだな、あの家の。


「だけど、呪物を設置した本人が近くにいた。そして、朝な夕なに水無瀬家を、水無瀬家で一番弱い存在だった幼い水無瀬さんを呪っていた。──その結果、特に“力”を持っていたわけでもない()と、呪物が繋がってしまったんです」


「そ、それはやっぱり、人と、道具としての相性が良かったから……?」


「そう。彼の気を──呪いの意志を、増幅してしまった。しかも、それは常時供給されるわけでね」


外部電源に繋がっているみたいなものですよ、なんて仕方なさそうな顔をしてみせるけど、呪いのダイナモ(発電機)なんて笑えない。思わず沈黙してしまう。


「……」


「元からそのように作られ、さらに水無瀬家を害するという明確な意志を目覚めさせた呪物は、作られたその形のまま猫となり、周囲の魚を捕らえ、食らい始めた。最初は小さな、弱いものしか捕まえられなかったでしょうが、食らって己の中に取り入れることによって、だんだん成長(・・)していったんですよ」


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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