双子のきょうだい 後日談13
「でも・・・弟さん、ご自分で抜け出されたとか、そういうことじゃないんですか?」
金持ちボンボンな生活をしていたようだから、実家に内緒の隠れ家のひとつやふたつ、持ってそうな気がするけど。
「座敷牢の鍵はしっかり閉まっておりましたから、その可能性はありません」
「ざ、座敷牢ですか・・・」
またまたさらっと恐ろしい単語が。まさか!と笑って済ませたいけど、旧家当主の威厳バリバリ漂う百日紅氏を見ていると、そんな気持ちも萎える。・・・本当にあるんだな、そういう部屋(?)が。
「ああ、座敷牢とは言っても、昔ほど不便なものではありませんよ。私の代になってから改装して、ユニットバスも完備しています。ただ、格子だけは昔のままにしてあります。あれこそが座敷牢の座敷牢たる所以ですからね。とても頑丈に出来ている上、中も見やすいですし」
「はぁ・・・」
そうですか。あなたの代になってから座敷牢のままで改装・・・普通の部屋に改装なさるおつもりはなかったのですね。
怖っ! と慄く俺の内心も知らず(そりゃ知らないわな)、百日紅氏は続ける。
「まあ、そのような部屋から姿が消えたもので、私どもはすぐ弟の子供の頃を思い出し、これは当家の狛犬の力だな、と考えたわけです」
「そうなんですか・・・」
としか言いようがない。
「で、狛犬様が(思わず、様付けしちゃったよ)、弟さんのことを『怒ってはいるけれども見捨ててはいない』というのは、どういったところから・・・?」
「そこです」
どこですか? なんてベタな相槌は心の中だけにして。俺は百日紅氏の言葉を待った。
「姿を消して一週間後、弟が現れた場所。そこから、私どもはそのように判断したのです」
「現れた場所、ですか・・・?」
てか、密室(っても、普通なら壁である部分が牢格子になってるんだから、厳密にいうと違うのかもしれんが)から人ひとり消えて一週間て、どんな完全犯罪だよ! と思ったが、怖いので黙っておく。
「そうです。なんと、弟は、当家に縁のある神社に姿を現したのですよ。ここからはかなり遠く離れた、山の中の神社です。境内の御神木の根方に、放心したようにもたれていたそうです」
「あの・・・ご無事で?」
「無事、といっていいのでしょうね。それから高熱が出て、三日三晩寝込んだようですが、四日めには回復したと聞いていますから」
「はぁ・・・」
「熱にうなされながら、狛犬が、とか、子供が、とか、あーちゃんごめんなさいうーちゃんごめんなさいもうしません、とか、色々うわ言を言っていたそうです」
本当に不肖の弟で、と百日紅氏は、泣き笑いとはまた違う、苦笑とも違う、何ともいえない複雑な表情をしてみせた。




