双子のきょうだい 後日談11
目をぱちくりさせていると、百日紅氏がホッと息をつくのが聞こえた。
「良かった・・・目を覚まさないのかと思いましたよ」
「あの・・・俺、眠ってました?」
百日紅氏が無言で頷く。全然そんな感覚はなかったけど、俺はいつの間にか眠っていたらしい。
「時間にして、そうですね、五分くらいでしょうか。狛犬たちの頭を撫でてらっしゃるな、と思ったら、急にその場にくずおれて・・・」
「・・・五分、ですか」
俺は上半身を起こしてみた。別に、どこもなんともない。軽く頭を振ってみたが、眩暈がするわけでもなかった。
「全然記憶がありません・・・どうしたんだろ・・・」
もしや、脳梗塞とか脳溢血とかクモ膜下出血とか? でも、呂律が回らないわけじゃないし、どっか痺れてるわけでもないし、むしろ、気分爽快?
足を投げ出して座ったまま、あれこれ首を傾げていると、改まった調子で百日紅氏が訊ねてきた。
「夢を・・・夢を見ませんでしたか?」
「夢?」
「寝言言ってらっしゃいましたよ。舐めるなとか、くすぐったいとか」
「え? あ・・・」
ぽん、と脳裡に浮かぶ、ふわふわむくむくの仔犬。なんか、俺、そいつらと遊んでた、ような・・・? やたらと元気で、人懐っこい、二匹の・・・
「・・・双子の、仔犬」
思わず洩らした言葉に、百日紅氏はなにやら納得したみたいだった。
「そうですか・・・よほど気に入られたみたいですね」
「え? あの、俺?」
思わず、混乱。誰に? 誰が?
「当家の、狛犬ですよ。あなた、ここにいる狛犬に好かれているんです。この場所に招かれたことといい、夢に現れたことといい──こういう場合、下手すると三日くらい目が覚めなかったりするんですが、すぐ目が覚めて良かったですね」
もしかしたら明日あたり、何か犬に関係するお仕事、されるんじゃないですか? 百日紅氏はそう訊ねてきた。
「あれ、何で分かるんですか? 明日はグレートデンの伝さんとマメ芝の茶々丸くんの朝昼の散歩に・・・」
「ああ、やっぱり。帰りの電車のこともありますし、だから五分で返してくれたんでしょうね。当家の狛犬は、よその犬のことも大好きなんだそうですよ」
狛犬だけにねぇ。そう言って、百日紅氏は微笑んだ。




