双子のきょうだい 後日談9
彼の話を聞いていて、急に疑問が湧いてきた。聞くのが怖いような気もするが、曖昧なまま置いておくのも精神衛生上悪い気がする。ので、思い切って訊ねてみた。
「あのう・・・もしかしたら、<阿形>の<アルファ>の方がお兄ちゃんだったりします?」
兄ちゃんは、いっつも口開けててぼんやりさん。
あの子はそう言ってたっけ。この五月、<悪い人に攫われたお兄ちゃん>を探しに、慈恩堂に現れたあの子。
「あなたは・・・」
言葉を失ったように、百日紅氏は俺の顔をまじまじと見つめる。
「もしかして、当家の狛犬の化身に会ったことがあるんですか?」
ストレートに訊ねられて、俺は答えに詰まった。
だってさ。何て言えばいい? あの時のことはどういうふうに解釈すればいいのか、自分でも分からないし。
だいたい、後から考えれば考えるほど、色々、ほんっとうに色々、辻褄が合わないんだよな。何だか、慈恩堂店主にくるくるくるっと言いくるめられてしまっただけのような気がする・・・
でも! 俺は深く考えるのを止めてたんだ!
だって、怖いし・・・触らぬ神に祟りなし、って言うし。
――あなたは大丈夫でしょ、多分。あっちから触りにくることはあるかもしれないけど、まあ・・・、大丈夫だと思います、よ?
ふと、店主の言葉が脳裡に甦る。
触らなかったら祟りもないって信じてたのに、「あっちから触りにくる」ってどういう意味なんだ? あああ、やっぱり考えたくない!
「そ、そんなことはないですよ。やだなぁ。ははは・・・」
ふと気づいたら、そんな言葉を口にしていた。
「こちらのお屋敷に伺うの、今日が初めてですし。えっと、本当に<アルファ>の方がお兄ちゃんになるんですか? いやー、<阿吽>というくらいだから、どっちが兄で弟かといったら、<阿>の方が兄かなー、なんて思っただけなんですよ。あはは・・・」
笑う声が、我ながら白々しい。
そして、嘘くさい。
「・・・そうでしたか」
百日紅氏は、そう答えただけだった。でも、俺を見るその目が疑ってる。疑ってるよ。でも、負けない。ボクはこの瞳で嘘をつくんだ!
・・・
・・・
「えーと、狛犬の<阿形><吽形>って、どこのでも皆<兄と弟>なんでしょうかね? そうだとしたら、面白いなぁ」
微妙な無言状態に耐えがたくなって、俺はついそんなことを口走っていた。にらめっこに負けた気分だった。
「そういうわけでもないらしいです。当家の狛犬の場合は、曾祖母が直接そのように告げられたので、仲の良い兄弟なのだということになっているんですよ」
チャゲ&アスカ…




