双子のきょうだい 後日談8
それにしても・・・古い家に、姿の見えない子供。まるで・・・
「何だか、座敷童子みたいなお話ですね」
「そう、なんでしょうか・・・昔、先代に、つまり父に聞いた話では、私の曾祖母にも見えていたそうです」
「え・・・ひいお祖母さん?」
「はい。分家から婿を取ってこの家を継いだ人です。一人娘だったとか。この曾祖母も、神隠しのように姿が見えなくなったと思うと、また何事もなくどこからともなく現れて、家のものを驚かせたといいます」
「それは、やっぱり、そのひいお祖母さん以外の誰にも見えない子供が二人、誘いに来たとか・・・?」
オカルトな想像に怯えつつ訊ねてみると、百日紅氏はあっさり頷いた。
「だいたいは双子の男の子が遊びに誘いに来たといいますが、時には、二匹の仔犬の姿でも曾祖母の元に遊びに来たそうです」
「仔犬・・・」
「末の弟は、成人する頃には見えなくなってしまったようですが、曾祖母には終生その子たちの姿が見えていたといいます。曾祖母は、不思議な双子は当家の屋敷神を守る狛犬の化身なのだと言っていたそうです」
狛犬。狛犬の化身。
「アルファと、オメガ・・・」
無意識に呟いた俺に、百日紅氏は少し驚いたようだった。
「何故、当家の狛犬の呼び名を知ってるんですか?」
その言葉に、俺の方が驚いた。
「え? こちらの狛犬の名前、本当に<アルファ>と<オメガ>っていうんですか? <阿>と<吽>を外国語でいうと、そうなるんだとは教わりましたけど」
「元は聖書の言葉らしいので、ヘブライ語、になるんでしょうか? 私も詳しくは知らないのですが。確か、ヨハネの黙示録に出てくると聞いたことがあります」
「何だか・・・ハイカラ? ですね。でも、はじめからその名前だったわけじゃないんでしょう?」
百日紅氏は苦笑した。
「もちろん。元は名前なんて無かったはずです。呼んだにしても、せいぜし<狛犬>か、<阿形><吽形>くらいでしょう。当家の目録にもそうとしか載っていません」
「じゃあ、誰がそんな名前を付けたんですか?」
「曾祖母が名づけたと、私は聞いています。子供の頃から手当たり次第に本を読む人だったそうですが、読んだ本の中にきっと聖書もあったんでしょう。曾祖母はもちろんキリスト教徒というわけではなく、<阿吽>の意味と、<アルファとオメガ>の意味が一致すると考えたんじゃないだろうか、と私は思っています」
実際、同じですよね、と百日紅氏は言った。




