双子のきょうだい 後日談6
「いえ、阿形ですよ。吽形の方は無事でした。本当は阿吽両方とも持って行きたかったんでしょうが、私が駆けつけたのが早かったので、片方だけで諦めたんだと思います」
「防犯装置が作動したんですか?」
こんな大きな家だと、セ○ムとかア○ソックとか、やっぱり必要になってくるんだろうなぁ。そう思いながら訊ねたら、百日紅氏は首を振った。
「うちにはそういったものはありません。これまでは必要ではなかったので・・・」
かすかに溜息をつく百日紅氏。
「これまで、とは?」
「不心得者が侵入しても、当家の場合、その者は延々と廊下を迷うはめになるという話を先ほどいたしましたが」
「ああ・・・」
本当だとしたら、最高のセキュリティだよな、ある意味。って、ん? 無事に戻ったとはいえ、一度はここの狛犬が片方盗まれたんだから、万全ではないってことか?
「内側から手引きする者がおりましてね。その者がこの場所まで侵入者を案内したんですよ。でなければ、狛犬を片方だけとはいえ、盗んで行くなど不可能です。普通は、まずここまで辿り着けませんから」
「誰がそんなことを・・・?」
「──不肖の弟です」
俺の問いに百日紅氏は答え、肩を落とした。
「末っ子のせいか両親が甘やかしたもので、就職しても続きませんでね。定職に就かず、ぶらぶらと。何か事業をやるといってはすぐ失敗し、無心に来るのですが、本人のためにならないと思い、最近では断るようになっていたのです。それが悪かったというか・・・」
あー、なんか、金持ちの家によくある話だなぁ。当事者にとってはシャレにならないんだろうけど。
「ちょくちょく倉から小物を持ち出して売ったりしてるのは知ってたんですが、少しくらいなら、と目をつぶっておりました」
それも悪かったんですね、と百日紅氏は嘆いた。
「そうこうしているうちに、タチの悪い骨董品屋に目を付けられたようで。大金になるからと、盗みの手引きをするように唆されたようです」
子供の頃はあんなに遊んでもらったくせに、その相手を売り飛ばそうとするなんて、と重い溜息をつく百日紅氏。
遊んでもらった相手を、売り飛ばす・・・?
その時、盗まれたのって狛犬だよな?
えーと。おっしゃっていることが一部理解不能です、百日紅さん。




