双子のきょうだい 後日談4
端布、とはとうてい言えないような、色とりどりのきれいな布をいくつも使った、贅沢な逸品。だけど、縫い目が微妙に不器用。
特に、あの部分。今、ちょうど手前に見えている、ピンクの濃淡で描かれた、桃の実と桃の花を組み合わせた模様。変わった形だなぁ、と思って見てたから、よく覚えてる。
何でこれがここに? これは、以前、慈恩堂店主が吽形の狛犬と一緒にどこかへ届けに行ったはず・・・
「ああ、ここにいらっしゃったんですか」
後ろからの声に、俺は思わず飛び上がりそうになった。
「す、すみません、百日紅さん。迷ってしまって・・」
他人の家をこそこそ探るような怪しい人間だと思われたらどうしよう。ビクビクしながら頭を下げる。そんな俺に、この家の主人はにこにこ笑いながらさらっと告げた。
「お気になさらず。この家に来て迷った人は、必ずここに辿り着くんですよ」
なんじゃ、そりゃ? びっくりして、俺はまじまじと百日紅氏の顔を見つめた。構造上の問題? 騙し絵の家? 下ってるように見えて実は登ってる坂道とか、そういうこと?
考え込んでしまった俺に、氏は言葉を続ける。
「不心得な人の場合は、どこにも着かずに延々と廊下を迷うことになってます。いつだったか、帰ったふりをしてうちの中を漁ろうとした男がありましてね。その男は、丸一日迷い続けたそうです」
「まるいちにち?」
「そうです。丸一日です。不思議なことに、男が迷っている間、うちの者は誰もそのことに気づきませんでした。彼はずっと廊下を歩いていたと言うんですが、誰もその姿を見なかったんです」
「それって・・・何だか狐に化かされたみたい、ですね」
山道で、迷ったと思ったら、同じ所をぐるぐる歩いてた、みたいな話は聞いたことがある。
「その男、それから高熱を出して三日くらい寝込んだんですが、しきりに『子供が・・・子供が・・・』と言って魘されてました。熱が下がった後に聞いても、何も覚えてなかったですが」
「そうなんですか・・・」
とりあえずそう答えてみたものの、俺の声は震えてたかもしれない。
・・・この家って、もしかしなくても、慈恩堂と同じくらい怖くないか?