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双子のきょうだい 後日談1

慈恩堂店主に頼まれて、届け物をしに出かけた。特急電車に揺られながら、店主の言葉を思い出す。


──いつもなら自分で行くんですが、お盆の時期はねぇ・・・僕はちょっと店から離れられないんですよ。落ち着かなくて。


店から離れられないって、何で? 落ち着かないって、誰が? 訊ねても、曖昧に笑うだけで答えてはくれない。ただ、聞き分けのない子供を見るような目で、怪しい古道具でいっぱいの店内を見つめるばかりで・・・。ま、まあいいや。あんまり考えないようにしよう。考えたら、考えたら・・・


・・・

・・・


はっ! 何か、意識の端っこをホラーな妄想が駆け抜けたけど、無視しておこう。思い出すのもやめよう。ただでさえ、持たされた<届け物>が不気味だというのに。


<届け物>は、底辺が二十センチ四方、高さが三十センチ余りの立派な箱に入っている。それを風呂敷に包んでしっかり膝に乗せてるんだが・・・


そんなに重くは無い。何だっけ、乾漆仏? で、阿弥陀仏だったか、弥勒菩薩だったか。一応、箱に収める前に見せてもらったけど。焦げ茶の地に金箔の残り具合が良い感じで、よく分からないけど値が張りそうだった。


ま、普通の仏像だとは思う。思うんだが。


何でだろう、何でこの膝に乗せてる風呂敷包みごと、猫を抱いてるようにあったかいんだろう。


嫌な感じではない。ふわっとほわっといい感じ。特急電車の中はエアコンが効きすぎてるんで、暖かくってちょうど良い。いいんだけどさ。


箱の中には仏像しか入ってない。それは確かだ。店主が蓋をして、風呂敷に包むまでの一連の作業をこの眼で見てたんだから。だから、箱の中には湯たんぽも、簡易カイロも入ってないのを知っている。知っているから。


手荷物は、網棚に乗せてしまいたい。


けど、そんな所に乗せておいて、何かの拍子に落っこちて中身が壊れたりしたら・・・多分、俺の収入からでは弁償しきれない、はず。だから怖くても、しっかりと膝に抱えてるんだ。


この不気味な違和感をたとえるなら、「ぬいぐるみを抱いてたら、実は生きていた」って、ぎゃー! 考えるな、俺。降りる予定の駅が見えてきたんだから!


急行から各停に乗り換え、鄙びた無人駅の一ヵ所しかない改札口を出る。すると、そこにはまるで背景を間違えたかのように場違いな、やたら高級そうな車が止まっていた。黒いけど、タクシーじゃない。


車には詳しくないけど、あのロゴは国産メーカー? 国産の高級車の方が、ヘタな外車より高いって義弟の智晴に聞いたことがあるけど・・・とか、ぼんやり考えてたら、いかにも<運転手>なお仕着せを着た人が降りてきた。俺を迎えに来たという。


仏像の届け先は、田舎の旧家だとは聞いてたけど、お抱え運転手がいるようなとこだったんですか、慈恩堂店主!


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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