双子のきょうだい 9
あれ、あの子たちどこ行った?
アルファくん! オメガくん!
身を乗り出して店内に視線を走らせる。二人して、隠れんぼか?
俺は帳場から降りようとして
ポッポー ポッポー
がくっ!
「あ痛っ」
鳩時計にびっくりして、飛び起きた。っていうか、飛び、突っ込んで、天板で思いっきりデコ打った。目の前に星が散る。
「夢、か」
赤くなってるだろう額を擦りながら、俺は独りごちた。仕事中(一応)に居眠りしてた自分の非を棚に上げ、脅かしてくれた鳩時計を睨みつける。重なった短針と長針の角度、ちょうど六十度。
「二時か・・・」
ふわぁ、と欠伸。腹減った。何でこんな時間まで寝てたんだろう。せめて一時に起こして欲しかったよ、鳩時計。使えないヤツ。
「ん?」
耳の奥に蘇る鳩の声。ポッポー、ポッポー、ポッポー・・・十三回鳴いたの、数えてなかったっけ、俺。
・・・
・・・
んなバカな。二十四時間対応鳩時計なんて聞いたこともない。何寝ぼけてんだろ。
そういえば、何か変な夢見てたなぁ。あの男の子、今頃はもうとっくに兄ちゃんと喜びの再会してるだろうけど、俺の夢の中でも、うれしそうだったな。
アルファと、オメガ、か」
ふと呟く。最初と最後、始まりと終焉、だったっけか。学生の頃読んだ何かの本──美術か、宗教か・・・哲学の本だったかな? そこに書いてあったの、思い出した。
宇宙の始めと終わり、それをひと言で表現すると、<阿吽>。阿は始まりでありアルファ、吽は終焉でありオメガ。だから、仁王像や狛犬など、寺や神社の<護り>として、対で左右に置かれるものは、口を開けた形の<阿>と、口を閉じた形の<吽>の、ただそれだけで、時間も空間も含んだ<全て>を表していると・・・
――由緒正しい家柄の子でねぇ・・・双子の弟と一緒にずっと大切に可愛がられてたんですが、もう三日前ほど前になるのかな、不心得者に連れ出されてしまって
――アルファくんとオメガくんか。そっか、対の名前なんだね
――うん。ぼくたち、いつもいっしょだから
「あ、れ・・・?」
いつも一緒の双子の兄弟、アルファとオメガ。それすなわち阿吽の、全き対の存在で、片方だけではその存在の、絶対の意義に欠けるもの。