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双子のきょうだい 8

がくっ!


頬杖が外れて、危うく帳場の天板で額を打つところだった。顎が先に当たりそうなものだけど、何故かおデコなんだよなぁ。どうでもいいけど。


あー、また居眠りしてたかな、俺。客が来ないからといって、こんなことではイカン。気を引き締めなければ! とはいえ、ここで店番するとどうしてかいつも居眠ってしまう。丸石さんちの自転車屋とかで電話番してても全然眠くならないのに。


ここには、魔が棲んでいる。

睡魔という魔が。


なぁんてな。


などと、今は亡き長さん演じる「和久さん」みたいな台詞を呟いた時。


「おじさん」


子供の声がした。姿は見えない。だが、学習(?)した俺は、今度はラジオのせいになんかせずに天板に手をついて伸び上がり、帳場の向こうをのぞいた。


「あれ? きみ、たち・・・」


見覚えのある顔が、ふたつ。昼前くらいにここに来たあの男の子と同じ。二人、仲良く手を繋いでる。


と、いうことは。


「兄ちゃんに会えたのか。良かったね」


こくん、と片方の子がうなずく。じゃあ、こっちが。


「えっと、オメガくん、だったかな?」


「うん。兄ちゃんはね、アルファっていうんだよ」


う・・・! 兄ちゃんの名前もやっぱり変わってる。ニックネーム、かな? いくら何でも、その名前で出生届は出さないだろう。と、思いたい。


「アルファくんとオメガくんか。そっか、対の名前なんだね」


「うん。ぼくたち、いつもいっしょだから」


弟のオメガくんが答える。兄ちゃんのアルファくんは、小さなくちびるをちょっとだけ開いて、にこにこ笑ってる。


「無事な姿見せてくれて、おじさんはうれしいけど、どうしてここに来たの? またお家の人が心配するよ」


そうだよ。アルファくんは悪い奴らに誘拐されてたんだから。で、真久部堂店主に保護されて──あれ? 彼は、今日この子を親元に帰したって言ってなかったか?


「真久部さんは? まさか、君たちだけでここに来たわけじゃないよね?」


「まくべより、ぼくたちのほうがはしるのはやいもん」


・・・どこをどう走ってきたというのか、まだ四、五歳の子供が。

何かがおかしい。おかしいんだけど、寝起きのせいか、頭がぼーっとしてる。それでも、何とか言葉を捻り出していた。


「だけど、アルファくんは今日やっとお家に帰れたばかりだよね? ダメだよ。勝手に出てきたら」


「だいじょうぶ。からだはあっちにあるから」


オメガくんの言葉に、俺はこんがらがっていた。


「からだ、あっち?」


「そうだよ。だから、ながくはいられないけど、おじさんにおれいいいたかったんだ。兄ちゃんもおじさんにあってみたいっていうから、ふたりできたの」


「え? おじさん、何もできなかったけど・・・」


俺、ただ焦って慌ててただけだと思うけどなぁ。


「おじさん、ぼくのはなしちゃんときいてくれて、とってもしんぱいしてくれて、ぼく、うれしかったんだ。だって、おじさんいがいのだれも、ぼくのこえがきこえなかったみたいだから」


「そ、そうなのかい?」


「うん。ぼく、まくべのみせもおじさんもきにいったよ。おじさんのにおい、ちゃんとおぼえたから、また兄ちゃんとあそびにくるね」


弟の言葉に、アルファくんもにこにこ頷いている。ああ、これくらいの子供はかわいいなぁ。思わず目尻が下がる。


それはともかくとして、この子たちの家の連絡先も聞かなきゃいけないし、とりあえず座らせてお菓子でもあげようかと思い、ほんの一瞬ふたりから眼を離した。


そう、本当に瞬きするくらいの間だった。なのに、ふと顔を上げると、双子の兄弟は忽然とその姿を消していたのだった。


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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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