お地蔵様もたまには怒る 11
文章をどれだけ捏ね捏ねしてもキリがない推敲地獄に陥っていました。少し短め。
今見たら、この間からまた4ポイント増えてる? ありがとうございます。励みになります。
「皮肉ですね。──それにしても、カメラの映像を見て気づいたということは、その向かいのビルの管理人さんは、盗まれたお不動様のことをよく見知っている人だったんでしょうね」
その旧村出身者か、あるいは石像石仏マニアな人か。
「……そこがちょっとはっきりしないんだよ」
そのビルの管理人が見つけたわけではないらしい、と真久部さんはどこか心もとなさそうに否定する。
「えーとね、その不動像の関係者の一人、仮に田中さんとしましょうか。その田中さんが、とある筋に助けを求めたらしいんです。盗まれたお不動様の行方を探してほしいと」
「とある筋……?」
なんじゃそれ? 警察とかじゃなさそうだけど──。そう思って首を傾げると、真久部さんはうーん、と唸る。こんなに自信無さそうなこの人も珍しい。
「僕も人伝だからちょっとよく分からないんだけど──、メールだかチャットだか、そういうのでしか連絡が取れない相手だそうですよ。何でも、ありとあらゆる情報がその人のところに集まってくる、らしい……」
そこまで言って、何故か変な顔になる真久部さん。どうしたんだろ?
「今回、その人が不動像を見つけるために協力してくれたのは、田中さんの情報提供に対するお礼だと言われたそうなんです。でも、その、情報というのが──」
海を渡ってくるイノシシや鹿の動向、だという。田中さんちの近所の、四国某県海岸にそいつらが泳ぎ着いたら、あらかじめ決められた方法で知らせる、というものらしいけど……。
「微妙でしょ?」
「……」
俺は頷いていた。確かに、微妙だ……。盗まれたものの行方を探すなんて大変なことなのに、引き換えになるような情報、かなぁ? それって。
「でも、知りたいのは、本当にそれだけらしいんですよ。田中さんは、相手が野生動物の分布とか、そういうのを研究してる人だと思っていたんだそうですが……。まあ、連絡するのも別に苦ではないし、ずっと続けていたらしいですよ、十年くらい。地方の面白小ネタ的な感じで」
へー。奇特な人だな。
まあ、確かに余所のローカルネタって面白いよな。大分合○新聞のミニ事件簿とか。いやー、俺は山にいるはずのイノシシや鹿が、瀬戸大橋じゃなくて海を渡るってことに驚いたわ。四足動物の泳力って、意外に侮れないんだなぁ。
って、それはともかく。
「──でも、思っていた、ってことはそうじゃなかったんですね」
そこを指摘してみると、真久部さんは頷いた。
「そのようですね。他にも、何でそんなこと知りたいのか分からないようなことを聞かれることもあったんだそうですが……近所の野良猫の柄とか、ペットの名前とか」
んん?
「実際に会ったことはなくて、どこの誰かも知らないけれど、ネット越しのおつきあい、というか、メル友? うーん、そんな感じかな、僕の聞いた印象では。どこかの掲示板? で知り合ったけど、知っているのはハンドルネームだけ、とかで……。具体的に何してる人か、男か女かも分からないけど、とにかく動物ネタを喜ぶ人、と田中さんは単純に思ってたらしいです」
うーん、どっかで聞いたことのあるようなハナシだなー。まさかなー。
「さっきは、とある筋に助けを求めたらしいと言いましたが──、正確にはちょっと違うようです。何でも、愚痴をこぼしたんだとか」
「愚痴?」
「ええ。つい最近、またイノシシが一頭浜に泳ぎ着いたそうなんですが、それを知らせた話のついでに、住んでる地域のお堂から、昔からの古いお不動様が何者かに盗まれて、まだ見つからない。皆大切にしてたものなのに、とても悔しい、腹が立つ、って嘆いたんだとか。──田中さんはただ愚痴を聞いてもらいたかっただけなんだそうですが、そしたら、自分のところにはあらゆる情報が集まってくる、だから、日頃の情報提供への感謝として、知りたいことを教えてあげよう、みたいなことを言われたんだということなんですよ」
氏名職業性別不詳、全てが不明、そんでもって妙なことを知りたがる。酔狂で、気まぐれで、どこに住んでるのかも分からない、それはきっと、ネットの海を優雅に泳ぎまわる自称情報屋、“ウォッチャー”こと<風見鶏>に違いない。
──君の知りたいことだけを教えてあげる。
かつて、彼が俺に言った言葉が脳裏に蘇る。
「す、酔狂な人ですね」
取り敢えず、無難な言葉を選んでおいた。だって、<風見鶏>と俺との関係(?)は一応秘密だったはずだし。──俺のような“情報提供者”を彼は各地に持ってるんだろうな、と想像はしてたけど、四国にもいたんだな……。
相変わらず、そんな“情報”が何の役に立つのか、さっぱり分からないけど。