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お地蔵様もたまには怒る 10

何度書き直したか分からないくらい、粘土のように捏ねこねした回です。


今見たら、2ポイント増えてました。ありがとうございます。悩んで悩んで悩んで書いたり消したりした後なので、心に沁みます。

俺はぽかんと真久部さんの顔を見つめた。片手に持ったサンドイッチを落としかけて、慌てて取り分け皿に置く。


「仕掛けておいたGPSの位置が変わったら、それは移動してるってことでしょう? つまり、誰かが元の位置から動かして運んでいるということになる。お地蔵様が勝手に動くわけ無いんだから」


もしお地蔵様がその辺の道を普通に歩いてたら、びっくりしませんか? そう言われて、俺はこくこく頷いた。そんなん見たら、びっくりするどころか、怖いわ! ──笠地蔵の昔話だって、もしお地蔵様たちが菅笠を被らせてくれたお爺さんのところへお礼に行く途中に遭遇したら、俺、腰抜かす自信がある。


「追跡すれば、どこにお地蔵様がいるか分かる。取り戻せるんですよ、行方不明になる前に」


「た、確かに……」


お地蔵様とGPSが結びつかなかったのは、道端の素朴なお地蔵様と現代ハイテク機器の組合せが、目の前の煤けたちゃぶ台と、西洋アンティークのきらきらしいアフタヌーンティーセット並みにミスマッチだからだと思う。


意外すぎるよ、と心の中で言い訳していると、真久部さんはさらに続ける。


「全国のあちこちで、お地蔵様や仏像が盗難に遭ってるのは、何でも屋さんも知ってるでしょう?」


俺は頷く。昨日は朝からそのニュースで憤ってたんだよな。布留のお婆ちゃんだって、お地蔵様も道祖神もお不動様も一緒くたに盗まれてるって嘆いてた。──どちらさまも皆有難いけれど、それぞれの意味が違う。盗んだ者は絶対その意味を知らないか、知ってても無視してる。それも怖いし、ずっと昔からそこにあって、これから先もそこにあるはずのものを、手前勝手に盗んで行く、その心の荒みようが恐ろしいと。


「もう四年ほど前になりますか……千葉県のS市で、地域でとても大切にされてる双体道祖神が盗まれるという事件があったんだけどね、今もって行方が分からないし、犯人の情報も入らない。注連縄を張ってあったのに、犯人はそれを無視して盗んで行ったんですよ──ねえ、何でも屋さん。畏れを知らない人間の欲望の前には、ひっそりと道端に佇むお地蔵様など、ただのカモネギにすぎないと思いませんか?」


「か、カモネギって真久部さん。でも、そうですね……」


その譬えはどうかと思うけど、注連縄の向こうに手を出してしまうような輩にとっては、本当にその程度の認識なんだろうな……。


「嫌なことだけどね」


そう呟いた真久部さんの憂いを帯びた声に、アレな言い方はしていても真摯な思いを感じ取る。うん、俺も同じ気持ちだよ、真久部さん。


「だから、全国津々浦々に散らばる石仏の無防備な状態に、多くの人が危機感を抱いてるんです。僕もその一人で……寺社仏閣はコンビニより数が多いというけど、小さい石像石仏はもっと沢山ある上に、どこにどれだけあるか分からない。だから対策のしようがないと、ただ溜息を吐くだけでした。けれど──」


出来ることからやればいいんじゃない? と、ある人に言われたんだという。


「盗まれた不動像が見つかったことから、その人との繋がりが出来たんですよ。──この骨董業界でも、持ち込まれた古い地蔵像や道祖神像を、盗品と分かっていて扱う業者がいるんだけれど、これはそういう店から発見されてねぇ」


「故買屋、っていうんでしたっけ、そういうの」


前に、この人から教えてもらったことがある。


「ええ。そこの店主は盗品だとは知らなかったと言っていますが、どうだか」


そう答える顔は苦々しげだ。


「他にも幾つか怪しい品物があったそうですがね──、それはともかく、見つかったのは四国の小さな町の旧村で昔から大切にされてきたもので、お堂には鍵を取り付けて用心していたんだそうです。日頃お祀りしている人たちが、各地で頻発する盗難や損壊事件を重く見て対策してたんですね。それなのに、夜中に何者かがその鍵を壊し、中の不動像を盗んで行った……」


「うわあ……油断も隙も、というより、本来、盗むとか盗まれるとかそういうものじゃないはずなのに……。物騒な世の中になってしまいましたね」


本当に、と真久部さんも力なく頷く。


「見つかったきっかけは、防犯カメラだと聞いています。といっても、そのお堂の前に仕掛けてあったとかじゃなくて、どこをどうやってか転売されたあげく、その店の商品として堂々と陳列されてるのが、向かいのビルの入り口にあるカメラの端っこに映っていた、らしいんですよ」


「そんなことがあるんですか?」


普通、盗品って知ってたら、こそこそ隠しておくもんじゃないの?


「どうせ出所なんか分からないだろうと、故買品を無造作に店舗に並べる業者はいますよ。そういう業者は得てして知識が無いから、いわゆる“足がつきやすい”品物のことを知らない。有名でなくても、小さな特徴からでも、あれはどこそこのものだと分かる人には分かるんです。ましてや自分の知る石仏石像が盗まれたとなれば」


探している人は探してますよ、と真久部さんは言う。


「骨董市なんかでも、話題に出ますしね。今回、それでもなかなか見つからなかったのは、盗んで転売するまでの者たちが用心深く表に出さなかったからでしょう。最悪、国外に持ち出されることもあることを考えれば、防犯カメラの視界に入るところに置いてくれた業者には、感謝したほうがいいのかもしれません」



今朝は3時台に目が覚めてしまいました。

「本気出す時計 ねこエディション」の3時の猫を拝んだのは初めてです。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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