双子のきょうだい 7
そうだとしたら・・・あまりにも素早すぎないか? そう思って訊ねてみると、店主、答えて曰く。
「子供というのは、大人がびっくりするようなことをするものです、よ?」
「は? はぁ・・・」
んー、そういえば、さっきあの敷物は、先代のお祖母さんがまだ娘こどもの頃、切り取っちゃいけないようなもの(着物とか、帯とかかなぁ)から布を切り取って、縫ったものだとか言ってたっけ。──でも、あれれ? それって俺の疑問に対する説明になってないような? って、ん?
「その狛犬、持って行くんですか?」
絹?の布で吽形の狛犬を包む店主。これからまた出かけるというのに、荷物になるのでは?
「はい。きっと相方に会いたいだろうと思いまして」
「え? ここにないんですか?」
俺はアヤシイものがいっぱい並んでる店内を見渡した。この中に紛れてないのか、阿形の狛犬。
「今日、先に持っていきましたからねぇ」
「そうだったんですか。あ! さっきの敷物と一緒に、それも忘れて行ってたんですね!」
「・・・そういうことにしておきましょ。ふふふ」
楽しそうに笑いながら、店主はまた出かけて行った。夕方までに帰ってこれなかったら、店を閉めてくださいね、と俺に店の鍵を預けて。
店主が出て行ったら、途端に静かになった。
しーん・・・
俺以外、誰もいない。いないんだけど、何だろうな、この感じ。無理矢理たとえるなら、すごく大勢の人間が、じっと息を潜め、ひっそりと店のそこここに佇んでいるような、どこか不安になるようなこの微妙な緊張感。
・・・
・・・
か、考えるな、俺! 慈恩堂って、いっつもそうじゃないか! きっとあれだよ。壁の前で眼を閉じると、見えなくても何となくその壁を感じられるみたいに、店中にわんさとある謎の骨董品たちの物的な質量が、俺に圧迫感を与えるんだよ!
はぁはぁ・・・何焦ってるんだ。落ち着け、俺。
だけど。んー、「物的な質量」って、何だかちょっと物理学的だなぁ。高校の時の授業思い出した。難しかったなぁ、物理の授業。いっつも途中で眠くなって・・・
・・・
・・・
しーん・・・
ああ、時計の音がやけに大きく聞こえる。
チッチッチ・・・ポッポー、ポッポー、ポッポー・・・機械仕掛けの鳩が十三回鳴いた。