第二話 学園長⑤
耳を澄ます。外側を叩く音しか聞こえない。どうしようかと思っているとガゴン、と何かがぶつかった。そのせいで体によりいっそう釘がめり込む。と、鉄の処女にひびが入った。ひびの隙間から様子を伺うと、どうやらもう一つの鉄の処女を闇の影が投げたらしい。女琉さんが入っていたのに。
体中に刺さった欠片や釘を取っていく。服が血液で汚れていく。かなりの激痛が走った。
「女琉さん。大丈夫か?」
俺は声をかける。
「うん。あたしは金属の鎧を使って身体を金属で覆ったから平気だよ。でもひーちゃんが」
女琉さんは瞳を涙でにじませた。
「無様ね。闇の無効を使わないでおいてあげたのに。こっちは無傷、そっちはボロボロ。私はまだ手を残しているというのにこれじゃあね」
手だと? 一体どんな手を用意しているんだ?
どうする。何か勝てる方法は? 俺は思わずうつむいた。そこで あるものが視界に入った。……これは俺の能力と違って、 実態 があり威力も高いはず。
おそらく次で決まる。一瞬で明日香との間合いを詰める。スピードは学園長には負けるが、明日香よりは上だ。
「女琉さん。学園長を足止めしてくれ。頼む」
「分かったよ、ひーちゃん。残ってる力を全て使いきるよ」
女琉さんは即座に学園長の元に向かう。
俺は あるものを手に取り、水の放射を発動し、かかと周辺から水の渦を噴出させた。加速して明日香との間合いを詰めてあるもの―― 鉄の処女の欠片を突き出す。
明日香まで後一歩というところで突如、視界が真っ暗になった。思わず足を止めた。何だ?
「ぐっ!」
腹に激痛が走り、足を払われて尻餅をついてしまった。
ファサ、と太ももに何かが落ちた。見ると バンダナだった。思い出した。明日香が家を出る少し前にバンダナをポケットに仕舞っていたことをすっかり忘れていた。
腹には 鉄の処女の欠片が刺さっていた。足を止めた時に奪われたのか?
「私が言っていた手というのはそれのことよ。言わなくても分かると思うけど」
バンダナの使い道は視界潰しだった。
「もう、動けないでしょ。負けを認めなさい」
明日香は腹に刺さった欠片を取って地面に投げた。
「こっちにはまだ女琉さんが……」
「ごめんひーちゃん。もう動けないよ」
学園長が女琉さんを抱えてこちらにやってきた。
「こっちには何だって?」
「……何でもない。俺たちの負けだ」
「それじゃ、ふんどしになってもらおうかしら。……でもその前に菫」
明日香は菫を呼んだ。
「何? お姉ちゃん」
菫は明日香の側に行く。
「氷河を治してあげて」
「うん!」
菫は俺の前まで来て立ち止まった。
「黄色の花による治療」
黄色の花が出現して、俺の周りを囲んで身体に付着した。するとみるみるうちに傷が治っていく。
「お姉ちゃん。治したよ。褒めて!」
「偉いわね。菫」
明日香は菫の頭を愛しそうに撫でた。
「さて、戻りましょう」
☆☆
数分後、俺たちは戻ってきた。
「氷河。さっさとふんどしに着替えて」
ふんどしを渡された。
俺はリビングを出て行き、廊下で着替えた。
「氷河。似合っているわよ。……とても」
嘘だ。ニヤニヤしてるし。明日香以外もみんなニヤニヤしている。
恥ずかしくなって視線から避けるべく後ろを向いた。
「ケツをこっちに向けるなんて。何、自慢したいの?」
バカにするような声で明日香は言った。
え? ケツ? そういえば、ふんどしって後ろ側開いてたな。即座に前に向き直る。……もうすでに手遅れだが。
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。見ず知らずの他人ならいざ知らず、私たちは仲間だからね」
明日香は照れもせずそう言う。
そうだよな。明日香の言うとおりだ。俺はこんな仲間を持って幸せだ。
「明日香!」
俺は明日香に抱きつこうとしたが、グーで殴られた。
「いきなり飛び掛ってきて何のつもり?」
明日香に睨まれた。
えっと、仲間だよな? 仲間だから抱きついたっていいだろ? 何で殴られなきゃいけないんだ。理不尽だチクショー!
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