第二話 学園長④
数分後、俺たちは青銅学園の校庭にいた。
「氷河、タイマンにする? それともタッグにする? 一人で勝つ自信がないのなら、タッグをおすすめするけれど?」
明日香は髪をいじっていた。随分と余裕ぶっこいてやがるな。
「なめたこと言ってくれるじゃねえか! ぜひ、タッグでお願いします!」
俺は明日香に勢いよく頭を下げた。
「……プライドの欠片もありゃしないわね」
呆れた表情で明日香は俺を見た。……ん? 俺は何かおかしなことを言っただろうか。
「氷河、誰と組むかさっさと決めなさい。私は……そうね」
明日香は学園長のところに歩いていく。
「学園長。私と組んでくれませんか。お願いします」
学園長はニヤリ、と口角を上げた。
「可愛い生徒の頼みだ。引き受けよう」
明日香と学園長のタッグか。明日香は能力を無効化する技があるし、学園長は青銅学園最強の人物だからな。明日香が闇の無効を使ってこなければ能力は使い放題だ。だが、闇の無効を使ってくる可能性を考慮しなければならない。だとすると能力を無効化されても反撃できて尚且つ学園長と渡り合える者と組むべきだな。……体術に優れている飛炎先生しかいない。
俺は飛炎先生のところに行こうとした。が、その直前で腕を掴まれてしまった。女琉さんだった。
「ねえねえ、ひーちゃん。あたしと組もうよ」
「……え~と」
「あたしと組むのはいや? ひーちゃん?」
うるうるとした瞳で見つめられた。……飛炎先生と組むつもりだったが、そんな瞳で見つめられたら断るわけにはいかねえよな。
「いやじゃない。俺と女琉さんのコンビネーションを見せ付けてやろう」
「うん! 見せ付けよう、ひーちゃん」
女琉さんは嬉しそうに笑う。
☆☆
勝負が幕を開けた。
「金属の矢」
金属の矢が無数に女琉さんの周りを取り囲む。
「水刃」
水で形作った無数の刃を自分の周りに出現させた。
俺と女琉さんは明日香たちに向けて同時に放つ。砂埃が舞って明日香たちの姿が一瞬見えなくなったかと思うと、薄く延ばされた真っ黒な円形の物体が明日香たちを守るように立ちはだかっていた。
「闇の反射」
真っ黒な物体から、突如として水刃と金属の矢が闇に包まれて射出された。否、反射された。
俺と女琉さんは地面を蹴って左右に飛んで避ける。
「水の放射」
着地と同時に俺はかかと周辺から水の渦を噴出させた。加速して明日香の背後に回り込んで殴りかかる。が、できなかった。腹を蹴られて背中から地面に叩きつけられたからだ。
「がっ!」
肺から空気が吐き出された。
「甘いな、氷河」
学園長は言いつつ、俺の両足を掴んで持ち上げた。身体が数センチほど地面から浮いた。
「吐かないように気をつけな」
学園長は回転し始めた。身体に圧力がかかる。ジャイアントスイングだ。回転するスピードが速く呼吸がし辛い。
俺が助けを求めて女琉さんの方にチラリと視線を向けると、女琉さんはこちらに向かってこようとしていた。が、明日香が立ちはだかる。
「闇の影」
地面が黒く染まり、無数の人型の闇の影が左右に揺らめきながら姿を現す。無数の闇の影が女琉さんに襲いかかる。
「金属の矢」
女琉さんは金属の矢を闇の影へと放った。矢は頭を貫き、腹を貫き、腕を貫き、足を貫いた。次々と闇の影は闇の粒子を撒き散らしながら消滅していく。
「待っててひーちゃん。助けるから」
女琉さんはこちらに視線を向けた。
「女琉さん。後ろ」
明日香はニヤリ、とする。
「……っ!」
女琉さんは振り向く。が、遅かった。いつの間にか背後に回りこんでいた闇の影が女琉さんの身体を掴んで投げ飛ばす。
「ふん!」
それとほぼ同時に俺は学園長に投げ飛ばされる。まるで風と一体化したようなそんな感じがした。振り向くと女琉さんが勢いよくこちらに向かってきていた。このままでは激突してしまう。
激突まであと少しというところで、
「鉄の処女」
学園長の声が聞こえた。俺と女琉さんの間に女性の形をした高さ二メートルほどの鋼鉄製の人形が二体も出現した。左右に開いてる扉には先が丸くなっている釘が内部に向かって突き出していた。
俺と女琉さんは 鉄の処女の中に背中から叩きつけられた。
「がっ!」
「ぐっ!」
俺と女琉さんは同時に叫び声を上げた。背中に激痛が走る。
扉はギギギ、と音を立てて閉まっていく。釘が身体のあちこちに刺さるので、下手に身体を動かすわけにはいかない。
「闇の影」
明日香の声が聞こえた。その直後にドンドン、と外側を叩く音がした。四方八方から音が聞こえて耳鳴りがする。音を四方八方から鳴らすことによって、どこから攻撃が来るか分からなくさせようとしているんだな。
身体を動かすことができないとはいえ能力は使える。閉じ込められて周りが見えないから、普段以上に耳は研ぎ澄まされている。音のする方向――つまり攻撃が来る方向さえ分かれば対処は可能だ。しかし、四方八方から音が聞こえるため、どの音が攻撃の音なのか判断しづらい。さすが一位だけのことはあるな。
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