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第二話 学園長③

「昔みたいに女琉ちゃんと呼んでいいんだよ、ひーちゃん」

 ニコニコしながら、女琉さんは言った。その笑顔が怖くて身体が震えそうになる。

「いや、その、昔ならいざ知らず、高校生となった現在はちゃん付けで呼ぶのは恥ずかしい」

 俺が小学生の時には、飛炎先生と女琉さんがよく家に遊びに来ていた。兄さんと同級生だからな。女琉さんにはひーちゃんと可愛いがられていた。俺は女琉ちゃんと呼んで懐いていたが、今思うとすげえ恥ずかしいことをしていたな、俺。

「そっかそっかうんうん」

 女琉さんは両手を挙げておにぎりを握る時のような姿勢を取った。

金属の(メタル)ニードル

 手と手の間が光って針状の金属が形成される。女琉さんの能力は『金属』メタル。様々な形の金属を形成する能力だ。女琉さんは針状の金属を俺に向かって投げてきた。

「水……」

嵐銃ストームショット

 俺は能力を発動しようとしたが、それよりも早く兄さんが発動した。

 小さな球状の嵐が銃弾の如き速さで、針状の金属を弾き飛ばした。針状の金属はコロンコロンと床を転がっていく。先ほど、俺の頬をかすめたのはおそらくこの針状の金属であろう。

「助かっ……」

 すぐ横から、ブ~ンと音がして頬を虫に刺された。

「ってなかった! かゆい!」

「あ~、金属の(メタル)ニードルでひーちゃんの周りを飛び回っていた虫を退治しようと思っていたのに。邪魔しないでよ、らーくん」

 女琉さんは兄さんを睨みつけた。

「先にそう言ってくれれば能力を使わなかったんだけどね」

 兄さんが苦笑しながら言う。

「それもそっかうんうん、睨んでごめんね、らーくん」

 女琉さんは申し訳ないといった表情を浮かべた。

「別にいいよ」

「ひーちゃん、ごめんね。虫から守ってあげられなくて」

 謝られるほどのことではないと思う。それに虫から守られるとか、自分が情けなく思えるからこれでよかったんだ。……いや、よくはないか。頬がかゆいし。

「ひーちゃん、ぺろぺろしてあげるね」

 ぺろぺろ? 女琉さんの言ってることが分からない。

 女琉さんは俺に近づくと、しゃがみ込んで刺されたところを舌でぺろぺろと舐めてきた。あ、そういうことか。

「どう? ひーちゃん、かゆくなくなった? 何か顔が赤くなってるんだけど大丈夫?」

 心配そうな表情で顔を覗き込んでくる女琉さん。

「大丈夫だ。顔が赤くなってるのは女琉さんに舐められてるから」

 女琉さんの唇に魅力を感じて、キスしたいと思う衝動を抑えながら俺は言った。

「そっかそっか。じゃあ、頬がべとべとになるまで舐めてあげるね」

 じゃあって何?

 女琉さんはまた頬をぺろぺろと舐めてきた。先ほどよりも舌の動きが速くなったような気がする。気のせいだろうか?

「さっきより舌の動きを速くしてみたよ、ひーちゃん」

 気のせいじゃなかった。速くなってた。

「……痛い! 何事!」

 突然、頬に痛みを感じた。

「痛かった? ごめんごめん、ひーちゃん。刺されたところに歯形をつけたから」

「何ゆえ、歯形を!」

 俺は顔を横に向けて、女琉さんを見る。

「刺されたところが膨らんでいたから、何とかへこまそうと思って歯形をつけてみたよ」

 そう言って女琉さんは笑う。……いや、笑うとこじゃねえだろう。こちとら痛覚を感じてるんですよ!

「これを塗ればよかったんじゃない?」

 と、明日香が声をかけてきた。明日香の方を見ると、手には虫刺されの薬を持っていた。

「おお、明日香。それを俺に貸してくれ~」

 俺は明日香に手を伸ばすが、するりと避けられた。

「ダメよ。貸さないわ」

「なぜだ! 貸す気がないんなら何で持ってきたんだ!」

 俺は声を荒らげて明日香に抗議する。

「ねえ、氷河」

 明日香は微笑んでいた。

「何だ?」

「さっき、女の子みたいって言おうとしたでしょう」

「そうだったな。それを女琉さんに邪魔されたんだった」

「邪魔なんかしてないよ、ひーちゃん。それにね、あーちゃんは女の子みたいじゃなくてれっきとした女の子だよ」

 と言いつつ女琉さんは俺の頬を両手で挟みこむ。その姿を見た明日香は笑いながら、

「……ププ。面白い顔になってるわよ、氷河。その顔だといい感じじゃない」

「……その顔だといい感じ? どういう意味だそれ。その言い方だと普段はいい感じじゃないって聞こえるぞ」

「ええ、まさしくその通りよ、氷河」

 ……ひでえよ、明日香。俺の頬を少しだけ熱い涙が流れた。

「あら? 泣いているの、氷河? こんなことで泣くなんて情けないったらありゃしないわ。それでも男なの?」

 冷めた視線で明日香は俺を見た。

「男だから、泣いてはいけないというわけではないだろう。泣きたくなる時もあるさ。……今のようにな」

 俺は微かに微笑んだ。

「泣くか笑うかどっちかにしなさいよ。このバカ」

 ギロリと睨まれた。それはまるで蛇に睨まれた蛙のような心境だった。無論、明日香が蛇で俺が蛙な。

 明日香はわざとらしく咳をした。

「さて、話を戻すけど私は女の子みたいじゃなく女琉さんが言ったようにれっきとした女の子よ。私だからよかったものの、他の女の子なら傷ついて泣き喚いてうざくて仕方なかったかもしれないわよ」

 それって明日香は傷ついてないってことか? まあ、明日香はそんなことで傷つくようなタマじゃねえしな。

「あ! そうだわ。氷河」

 満面の笑みを浮かべて、明日香は俺を見た。何だか嫌な予感がする。

「これを貸して欲しかったら、私と勝負しなさい。氷河が勝てば貸してあげるわ。私が勝てば氷河は今日一日ふんどし一丁で過ごしなさい」

 嫌な予感が的中した。ふんどし一丁だと?

「そんなもん手元にねえよ」

「ああ、大丈夫よ。心配しないで。持っているから」

 何でふんどしを持っているんだ? それと心配などしていない。

「勝負する? それともしない?」

 明日香が聞いてきた。

「もちろん、するに決まっているだろう」

 俺は掌に拳をぶつけた。

「やる気満々ね。少し待ってて準備するから」

 明日香はそう言うと、リビングの扉を開けて出て行った。すぐに階段を上がる音が聞こえてきた。

「準備? 何の準備だ」

 俺は明日香が出て行った方向を見つめた。

「戦いの準備じゃないのか?」

 飛炎先生が、同じく明日香が出て行った方向を見つめていた。

「準備するようなことなんてあるか?」

 薄弱が可愛らしく首を傾げた。

 数分後、明日香が戻ってきた。……手にバンダナを持って。

「さて、始めようかしら。勝負を」

 そう言いながら、明日香はバンダナをポケットに仕舞い込む。……バンダナの使い道がさっぱり分からない。

「ここでやるわけにはいかないわね。物が壊れる可能性もあるわけだから。青銅学園の校庭でやりましょう」

 そんなわけで俺と明日香は青銅学園の校庭で勝負することになった。

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