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第二話 学園長①

「何を食べようかな」

 今は昼休みで、俺は東校舎一階の食堂に来ていた。六台の券売機が置いてあり、なんと無料なのである。ボタンを押すだけで食券が出てくるシステムなのだ。

「早くしろ。後ろ並んでるから。他の券売機も並んでるし、ここが一番早いと思ったんだが、間違いだったか」

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。俺はある人物を思い浮かべながら、後ろを振り向いた。

「学園長」

「よっ。氷河」

 思ったとおり後ろにいたのは学園長だった。名前は罪人罪人ざいにんつみびと。能力は『罪人の血(ブラッドオブシナー)』。拷問器具を形成する能力だ。

 青銅学園最強の人物であり、黒髪のポニーテイルで、なぜかいつも髑髏の絵のTシャツを着ている。

「お先にどうぞ」

「いいのか。サンキュー」

 学園長はそう言うと、俺の頬にキスしてきた。

「俺、今晩開いてますよ」

「……うわ~」

 なぜか引かれてしまった。学園長の顔が引きつっている。

「引きつっている顔も可愛いですよ、学・園・長」

「き・も・い」

 満面の笑みで言われた。

「あなたが誘ってきたのにその言い草は酷いですよ」

「私がいつ誘った」

「さっきですよ。頬にキスしましたよね。それはつまり誘ってるということに他ならない」

「……どうやって痛めつけてやろうか」

「痛めつけられるんですか! 仕方ありません。なるべく優しくしてください」

「いい心意気だ。『殴る』か『蹴る』か選べ」

「え~っと」

「時間切れだ。両方してやろう」

「え? ちょ、ま」

「ふん」

「がっ!」

 学園長は腕を振り上げ、俺の腹を殴った。

「ふんパートⅡ」

「がっ(パートⅡ)!」

 学園長が足を振り上げ、脛を蹴ってくる。痛い痛い痛い痛い。

「思い知ったか」

「はい。怒った顔もすごく可愛いと」

「そんな子に育てた覚えはない!」

「育てられた覚えもありませんが」

「あたふたあたふた」

「初めて見ました。あたふたと言う人」

「…………」

 学園長は無言で券売機のボタンを押し、食券を取ると、食堂のおばちゃんに渡した。

「大盛りで、おばちゃん」

 世界を救う事なんてできやしないんだと悟った英雄気取りの少年のような表情で学園長は言った。

「大盛りね、罪人ちゃん。十分ぐらいで出来ると思うから待ってて」

 ありとあらゆる物を観察し、何もかもお見通しといった感じの村人Aのような表情でおばちゃんは言った。

「ざるそばにしようか」

 俺はボタンを押し、食券を取った。

「おばちゃんこれ」

 食券をおばちゃんに渡した。

「ざるそばね。十分ぐらいでできると思うから待ってて」

「学園長、席に座りましょうか」

「そうだな。どこに座ろう」

 学園長は指を口に咥えて辺りを見回す。

 ああ、可愛い食べちゃいたいくらい可愛い家につれて帰りたいと言えば半殺しにされるだろうな確実に。

「学園長、氷河!」

 と俺たちを呼ぶ声がした。

 声がした方を見ると明日香、菫、蘭、薄弱、狼牙、飛炎先生が座っていた。

「ここの席が開いてるから、学園長座りなさい。さぁ早く!」

「明日香ありがとう。タメ口ならいいけど、命令口調なのが若干腹立つな」

 学園長がそう言うと、

「そう言っていただけると嬉しいです」

 と明日香が返した。

「嬉しいのか? 具体的にどの言葉が嬉しかった?」

「『タメ口ならいいけど命令口調なのが若干腹立つな』の部分です。文句を言われた。あの優しくて強く馬鹿で時折賢くタンクトップにパンツという露出度が高い大胆な姿で頬が紅潮し、涎を胸元に垂らしながら寝ている学園長に。ああ、身体が熱い。興奮する。抱かれたい」

「何で私がタンクトップにパンツという姿で涎を垂らしながら寝ているのを知っているのかはさておき、明日香。こんなことを言っていいものかどうか判断に迷うがしかし、お前の将来を思って言うことにする。……今日、明日香の家に遊びに行っていいか?」

「いいですよ。氷河たちも遊びに来ていいわよ」

 明日香がほほ笑みながら言った。

『ああ』

 俺たちは頷いた。

「学園長、それと将来にどう関係があるんだぜ!」

 狼牙が学園長に質問した。

「分からないのか、狼牙。明日香は私がどんな格好で寝ているのかを知っていた。その情報を得るための何かを持っている。犯罪的なことをしているかもしれない。つまり将来、犯罪者になる可能性があるということだ。それを確認するために明日香の家に遊びに行く。まあ、暇だからということもあるが」

「さすが、学園長だぜ!」

 狼牙がこくこくと頷いていた。

「ああ、素敵だわ学園長。さすが私のお嫁さんだわ」

 明日香がうっとりした表情で学園長を見つめている。

「明日香の物になった覚えはないし、お嫁さんというのもおかしい。女同士だから結婚とかできねえし」

「結婚はできなくても一緒に住むことは出来ます」

「それはそうだが。なあ、明日香ってさあ男と女両方好きだよな」

「ええ。私は可愛い女の子と可愛い男の子が大好き。そして学園長は凄く可愛い」

「……可愛いか。照れるな。女の子って年じゃねえけどな」

「学園長!」

 菫が学園長に声をかけた。

「何だ、菫」

「お姉ちゃんは……プッ……私の者……ププ……だよ! 学園長のことは……プププッ……愛してやまないけど……プ……渡さない!」

「私と明日香との会話にのってあげようという心遣いは正直嬉しいのだが、しかし、菫。笑いながら言うな」

「ごめんごめん学園長。それでね。どうしてお姉ちゃんが知ってたかというと学園長が住んでる部屋って実は、私たちの両親の物なんだよね」

「はい?」

「私たちが生まれた時、記念にとアパート一部屋購入したらしいんだよね。すでに家持ってたにもかかわらずね。若気の至りってやつだよ。購入したはいいものの使い道がないってことに遅まきながら気付いたんだ。どうしたものか考えた末に人に貸すことにしたんだよ」

「そうだったのか」

 学園長は腕を組んだ。

「つまり、私たちはいつ何時も自由に合鍵を使用できる立場にいたんだよ。両親がその部屋の大家であるがゆえにね」

「なるほど。私が寝てる隙に侵入していたわけか。最近パンツがなくなってるなと不思議に思っていたが、ようやく分かった。持ち帰ったんだな」

 学園長はフム、と頷く。

「うん、お姉ちゃんがね。たんすを開けてパンツを取り出し、香りを嗅いだりしてね。家に持ち帰って学園長のパンツをベッドに満遍なく敷いたりして寝てるよ」

「それは、私のことをそれほどまでに愛してくれてるんだなと喜ぶべきか。それとも気味悪がるべきか判断に迷うな」

「世間一般からみれば気味悪がるべきところだろうね」

「まぁ良い。今までに持ち帰ったパンツは贈呈しよう」

「罪人ちゃん、氷河ちゃんできたよ~」

 おばちゃんの呼ぶ声がした。

 俺と学園長は立ち上がり、頼んだ物を受け取り、席へ戻った。

 ちなみに青銅学園はこの学園長が創設者だ。学園長は現在三十八歳だから、今から八年前三十歳の時に創設したことになる。

 飛炎先生と兄さんと女琉さんは、青銅学園の一期生で同級生だ。八年前に入学し、五年前に卒業した。現在は二十三歳である。

 昼食を食べ終えて食堂から出る時に、学園長が俺に小声で、

「嵐牙も連れて来い」

 と言って去っていった。

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