第一話 水刃氷河VS魔道蘭④
「さてと、バトルでもしようかしら」
明日香が微笑みながら、みんなを見回した。
「燃えるぜ!」
本当に燃えそうな感じで狼牙は叫んだ。
「誰対誰にするの?」
菫は目をキラキラと輝かせていた。
「誰にするんだ?」
俺も明日香と同じようにみんなを見回した。
「うむ。誰にするのだ?」
蘭はどこか偉そうな感じで腕を組んでいた。
「……誰にする?」
ぼそっと薄弱は呟いた。
「薄弱は女の子同士の戦いが見たいんだろ?」
俺はニヤニヤしながら、薄弱に視線を向けた。
「何を言ってるんだ、氷河」
「カメラ付き携帯電話を手に持ってる理由は何だ?」
「! こ、これは……」
「これは?」
俺と手に持ってる携帯電話を交互に見ながら、
「お前を鍛えるためだよ」
薄弱はそんなことを言った。
「赤頭巾のオオカミ風で、上から目線で言ってもダメだからな」
「わぉ~ん!」
「お! 犬の遠吠え。可愛いな、薄弱は」
「…………」
シュボっと音が聞こえるぐらい薄弱の頬が真っ赤になった。ヤバ萌えだ。
「薄弱、こっちにおいで」
明日香に手招きされた薄弱は
「うん」
と素直に明日香の元に行った。
「よしよし薄弱」
明日香はぺろぺろと薄弱の頬を舐めていた。
「くすぐったいぞ、明日香」
「ああ、やわらかい身体ね……フフフフ」
明日香はどこか興奮気味に薄弱の身体を弄っている。困った様子の薄弱が可愛かった。
「お姉ちゃん、手つきがいやらしいね」
「ありゃ、薄弱の身体を触りたかっただけだぜ!」
「うむ、だろうな。してバトルの件はどうなったのだ」
「そうだな。忘れてんじゃねえか」
「忘れてないわよ。そうね、氷河と蘭にしましょう。幼馴染み対決ということで。みんなもそれでいい?」
長い髪をなびかせながら、明日香がこちらを振り向いた。
『OK!』
俺たちは明日香の提案に頷いた。
☆☆
時は一時間目、場所は校庭である。
飛炎先生に許可を貰い、校庭でバトルすることになった。
「俺が審判をする。負けた奴は勝った奴の言うことを聞くでいいな。普通に戦うだけじゃ面白みがねえから俺の技である、火炎地獄+火炎九龍の範囲内で戦ってもらう。いいな?」
飛炎先生は校庭の中心からやや離れたところに立ち、俺と蘭を交互に見た。
『はい!』
俺と蘭は同時に言った。
「では……囲め、火炎地獄!」
突如、地面から膨大な量の炎が現れて円を描くように俺と蘭を囲んだ。
『おぉ!!』
Aクラス全員が拍手喝采した。
「九つの龍の魂を導け、火炎九龍!」
空中に膨大な量の炎が現れて九つの龍へと形成された。
『格好いい!!』
Aクラス全員のテンションがマックスとなった。それほどに飛炎先生の技は迫力があった。炎系だからかもしれない。
「バトル開始!!」
飛炎先生が戦闘の開始を告げる。
「水刃!」
俺は水で形作った無数の刃を出現させると、それを周囲に配置した。が、すべて蒸発した。火炎地獄によって。
「ばかな~!!」
俺は驚愕して叫んだ。
「うむ、バカだな、氷河。人形!」
突如、三メートルはあろうかと思われる人形が二体も出現した。
「い……!!」
が、人形は火炎九龍によって一瞬のうちに燃やされて消滅した。
「な!」
蘭も驚愕していた。人のこと言えないだろう、蘭よ。
『え?』
Aクラス全員が唖然としていた。
「火力が強すぎたか?」
飛炎先生が頬をぽりぽりしながら言った。
「飛炎先生! 火力が強すぎます。弱めてください」
「うむ。火力を弱めてくれ、飛炎先生」
「分かった。弱めよう」
飛炎先生が両手を前にかざすと火力が大幅に弱まった。
「では、バトルを再開しろ」
「水刃!」
俺はあらためて水で形作った無数の刃を出現させると、蘭に向けて放った。電球とほぼ同じサイズの水の刃は勢いよく蘭に向かって突き進んでいった。
「人形の身体!」
蘭の正面に人形の身体だけが現れて、水の刃を受け止めた。水の刃は人形の身体に軽く刺さっただけだった。
「くっ!」
「人形!」
今度は二メートルほどの大きさの人形が出現し、さきほどよりもムキムキでガタイが良かった。
「行け!」
人形がこちらに向かって走って来た。
ならばあの手でいくまで。
「水刃」
今度は一本の刃だけを形作り、手に取った。
「水の放射」
俺はかかと周辺から水の渦を噴出させた。加速することにより威力を上げる。
加速で威力を上げた水の刃を人形の腹に刺し、吹っ飛ばした。
「うむ、そう来るか。人形!」
三体の人形が出現して肩を組み始めた。
「組み体操でも始める気か! 俺も混ぜろ!」
「いや、違うのだ」
蘭は真顔で言った。
「…………」
まあ、そうだよな。戦いの最中だしな。
肩を組んだ三体の人形は、俺が吹っ飛ばした人形をその身体で受け止めた。
「く、どうすればいいんだ。そうだ! 人形を一体だけ貸してくれないか。蘭」
「うむ、貸し出しはしない主義なのだ。悪いな、氷河」
「ケチ!」
俺の能力は攻撃力自体はさほど高くないからな。こうなったら飛炎先生の技を利用するしかないな。だが、どうやって利用すればいいんだ?
どうやって利用すればいいかと考えていたら、ぼっと何かが焦げるような音がした。
音がした方を見ると、四体の人形が火炎地獄の火を掴もうとし、腕が焦げていた。
「うむ、消滅はしないまでも焦げてしまうほどの火力はまだあるということか」
何ということだ。蘭も飛炎先生の技を利用しようとしているのか。
「うむ、腕を焦げない程度に太くするか」
四体の人形の腕が五倍ぐらい太くなった。一瞬にして人形は筋骨隆々の言葉が相応しい姿に変貌を遂げた。
「うぉ、何かきめえ!」
俺は思わず後ろへ下がってしまった。それとほぼ同時に四体の人形が火を掴んだ。
「水刃!」
俺は人形が次の行動を起こす前に、水で形作った無数の刃を火炎九龍に向かって放った。水の刃が火炎九龍に近付いた辺りで刃の形を崩した。水の塊となって勢いよく落下し、蘭の体に当たった。
「熱い!」
蘭は叫んで顔を歪めた。水の刃は火炎九龍の火力によって一瞬で熱湯と化したのだ。
俺は蘭が熱湯で苦しんでいる間に近付こうとしたが、その前に四体の人形が思いっきり火を投げてきた。
「水の放射」
俺はかかと周辺から水の渦を噴出させると、横に思いっきり飛んだ。その直後に火が地面に激突した。
「危ねえ」
「うむ、本当にそうかな?」
「あ?」
いつの間にか目の前に蘭がいた。あ、火は囮……か。熱湯では蘭を足止めすることはできなかったようだ。かなりの熱さになっていると思ったのに。
「 人形の衝撃」
蘭の右腕を喰らい、体に衝撃が走った。俺は目が眩んで地面に倒れてしまった。くやしいが、今回の勝負は俺の負けだな。
「蘭、負けた奴は勝った奴の言うことを聞くんだったな。何をすればいい」
「うむ、それはだな。私と一緒に人形で遊んでほしい」
「人形遊び?」
「うむ」
☆☆
蘭との戦闘後、俺たちは教室に戻ってきていた。
俺は現在、蘭に人形遊びをさせられている。みんながこっちを見て笑っている。
恥ずかしいぜコンチクショー!
感想頂けると幸いです。