第七話 能力雪合戦③
「お姉ちゃんには闇の反射があるし、反射される可能性を考えると、まずは狼牙たちから全滅させた方がいいかもしれないね」
菫は雪濠からほんの少しだけ顔を出し、戦況を伺っていた。俺も確認してみると、狼牙たちが明日香チームに向かって雪玉を投げているところだった。
「私が合図を出すから、氷河たちは狼牙と烈土に向かって雪玉を投げてね。間髪入れずに私が本物の中に幻覚を織り交ぜた上で雪玉を投げるから、最後に薄弱が投げて」
菫は明日香チームと狼牙チームとの攻防から目を離さずに、俺たちに作戦を伝えた。明日香チームは狼牙チームが放った雪玉を闇の反射で反射していた。さらに樹木が雪玉を投げ、木を巻き付けている。その姿は土星のようだった。巻き付いているのは木だけど。
菫の言うように先に狼牙チームから全滅させた方がいいかもしれない。それに明日香チームとは戦力に大きな差がある。人形と闇の影の数が多く、倍以上の戦力があるのだ。
烈土の砂が雪玉を押しつぶした。辺りには砂埃と雪が舞う。その瞬間、菫が合図を出した。
俺は水の鎖を巻き付けた雪玉を狼牙たちに投擲する。仲間も雪玉を投げつける。狼牙たちは気づき、慌てた様子で雪濠に戻ろうとする。チームメンバーは援護するかのように雪玉で応戦してきた。
すかさず菫が雪玉を放った。一見しただけではまったく分からないが、その中には幻覚の雪玉も含まれているはずだ。相手のチームメンバーが放った雪玉が菫の投げた雪玉をすり抜けた。その途端、相手は苦虫を噛み潰したような表情をする。雪玉を無駄に消費したことになるから、当然と言える。
最後に薄弱が透明の雪玉を投げた。狼牙チームは幻覚の雪玉と透明の雪玉に翻弄されるはずだ。現に相手のチームメンバーが放った雪玉は次々と幻覚の雪玉をすり抜けていき、本物を避けきれていない。さらに一見すると何もないように見える空間に雪玉を放っては透明の雪玉に相殺されている。
「砂の球」
雪濠に戻っていた烈土が身を乗り出し、砂を出現させた。砂は球状に変化し、無数の砂の球が仲間の放った雪玉に追突する。衝撃が中心の雪玉を伝わって透明の雪玉を粉砕し、勢いを殺さぬまま向かってくる。援護するかのように波斬が泡を砂の球の後方に浮遊させる。
「泡の爆発」
泡が爆発し、発生した爆風に煽られて雪玉と砂の球が加速する。それだけではなく、爆風が狼牙チームの姿を隠した。
「水の放射」
俺はかかと周辺から水の渦を噴出させ、一旦後ろに下がってから一気に加速した。その勢いを利用して次々と雪玉を放ちながら、明日香チームの様子を伺う。雪濠に遮られて様子は分からなかったが、端の方に人形の腕らしきものが見えた。
スピードに乗った雪玉は相手チームの雪玉を相殺したが、砂の球までは破壊できなかった。
俺は雪濠から飛び出し、直線を描くように、雪の上を何往復もした。大量の雪が舞い上がって壁となり、砂の球を防いだ。しかし、俺は多大なダメージを受けていた。舞い上がらせた際に雪が顔に付着したからか、顔全体がヒリヒリする。
俺は急いで雪濠内に戻った。顔をさすっていると、視線を感じた。見ると菫がジッと俺を見ていた。
「わあ、痛そうだね。何発もビンタを食らったかのように赤くなってるよ。そんなことよりお姉ちゃんたちは何かしでかすつもりだよ。チラッと人形の腕が見えたから」
「そんなことよりで片付けるなよ! けっこうヒリヒリするんだからな。まあ、それはひとまず置いておいて、俺も人形の腕は確認している」
「置いておくんだな。痛そうに見えるけど、大丈夫か?」
薄弱は呆れながらも、心配そうな表情で俺のことを見てきた。薄弱は本当に良い子だ。
俺はさりげなく薄弱を抱きしめたが、お腹をグーで殴られた。あまりの痛さに気絶しそうになった。こんなことで失格になったらシャレにならない。仲間にどやされる。
「すまない、氷河。いきなり抱きしめてきたから、つい殴ってしまった」
薄弱は申し訳なさそうに謝ってきた。薄弱は何も悪くない。明らかに俺が悪い。
「悪いのは俺なんだから、謝らなくていい」
俺がそう言うと薄弱はホッとしたように息を吐いた。
「あ、これはヤバイかも」
菫がほんの少しだけ顔を引きつらせながら呟く。雪濠から顔を出して確認すると、明日香チームの雪濠の前に二体の人形が立っていた。巨大な雪玉を抱えている。しかも筋骨隆々だ。あの体格で雪玉を放たれたら、計り知れない威力と速度になるのではないだろうか。狼牙たちも顔を引きつらせていた。
二体の人形は凄まじい速度で巨大な雪玉を投げてきた。
「緑色の花による刃」
菫は雪濠から飛び出し、緑色の花がいくつも重なった刃で巨大な雪玉を切断しようとした。その瞬間、雪玉にヒビが入った。薄弱と顔を見合せたと同時に雪玉から手が現れ、緑色の花による刃を受け止めた。それは人形の手だった。あの時、見えた手はこれだったのか。
チラリと狼牙チームを見た。同じように雪玉から手が出現し、鰐に姿を変えた狼牙を掴んでいた。さらに雪玉にヒビが入ったかと思うと、またも人形の手が現れ、大量の雪玉を放ってきた。
俺は両腕を交差させ、雪玉をガードした。一つ一つが途轍もなく重い。人形が放つとこれほどの威力が出るのか。人形の手は菫を雪に叩きつけた。
「ぐはぁ」
「大丈夫か、菫」
薄弱は雪玉を喰らいながらも、菫の元に駆け寄っていく。俺は明日香チームを伺い、愕然とした。無数の人形と闇の影が雪濠から飛び出していた。
無数の人形と闇の影は両手に雪玉を携え、俺たちと狼牙チーム目掛けて全速力で向かってくる。しかし、雪に足を取られ、上手く進めていない。ホッとしたのも束の間、雪面から木が出現し、明日香チームに向かってグニャリと曲がった。
計ったかのように人形と闇の影は木へと跳躍した。木は雪面すれすれまで曲がったかと思うと、人形と闇の影を上空まで飛ばした。雪が邪魔で歩きにくいから、木のバネを利用して飛ばしたのか。
人形と闇の影は上空で体を回転させ、雪玉を放ってきた。雪玉に回転が加えられ、スピードが増した。威力も上がっていることだろう。
「青色の花による壁」
菫は雪濠から飛び出すと、青色の花を出現させ、九枚の壁を作った。九枚の青色の花による壁が横向きになり、等間隔で縦に並べられていく。それはまるで階段のようだった。菫は緑色の花による刃で雪玉を蹴散らしながら、壁を足場にして駆けあがっていく。狼牙たちの方を見ると、烈土が砂で雪玉を防いでいた。
「よし、菫を援護するぞ! 水の鎖」
俺は水で形作った無数の刃を繋げた鎖を九個分ほど作った。そのうちの一個を右手に持つと、残りの八個を薄弱たちに渡した。水の鎖で雪玉に回転を加えながら、上空に向かって投げた。薄弱たちも水の鎖で回転を加えた雪玉を上空に放っていた。人形や闇の影が放った雪玉に直撃する寸前、別方向から飛んできた雪玉に粉砕された。
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