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スプリングナイフの氷河  作者: 神通百力


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第六話 授業③

「は……い……」

 樹木が笑いをこらえながら、手をあげた。樹木の能力は『ウッド』。木を操る能力であり、緑色の髪をしている。

「木が自由に動き回る話を提案したい」

 俺をニヤニヤと見つめながら、樹木はアイデアを提案する。失礼な奴だ。俺は好きで往復ビンタされているわけじゃない。というか何で誰も俺を助けようとしてくれないんだ? せめて蘭は俺の味方でいろよ。明日香の味方をするなんて、それでも幼馴染か? 蘭にアイコンタクトを送ったが、無視された。

 俺は明日香の往復ビンタを止めるため、足を蹴り飛ばした。

「何するのよ、氷河。痛いじゃない」

 明日香はようやく往復ビンタを止めた。安心したのも束の間、明日香は手を伸ばし、俺の片目を握りつぶした。まさか足を蹴ったくらいで、目を握りつぶされることになるなんて思わなかった。

 人形の手が体から離れ、俺は目を抑えた。血が頬を伝い、机の上にポタリと落ちる。瞬く間に血の海が出来た。

「私の足を蹴り飛ばした報いよ。授業が終わったら、菫に治してもらいなさい」

 俺は授業が終わるまで、ずっとこの状態でいなければいけないのか? あまりにも痛くて何も考えられない。これではアイデアを出せそうにない。

 目がズキズキと痛み、話に集中できそうにない。

 なんで小説を書く授業で痛い目に遭わなければならないんだ? 明日香め、覚えてろよ。なんか小物感が出ているが、そんなことは構わねえ。必ず痛い目に遭わせてやる。

「……ちょっとやりすぎたわね。お詫びに一緒に風呂に入ってあげてもいいわよ」

「……この程度の痛みなんて屁でもないぜ」

 俺はニヤニヤが止まらなかった。

 明日香は性格はアレだが、顔は可愛いからな。一緒に風呂に入れるなんて片目を潰された甲斐があるってもんだ。俺はもう明日香を痛い目に遭わせる気なんてなかった。混浴できるなら、そんなことはどうでもいい。

「うむ、ニヤニヤしすぎなのだ」

「なんなら蘭も一緒に入るか? あっはっはっは!」

「うむ、おじさんと一緒に入るのも悪くはない」

「誰がおじさんだ! 俺は健全な男子高校生だぞ! 自分でもおじさんっぽいなとは思ったけど!」

 笑い方がおじさん過ぎたなと少し反省している。

 蘭も一緒に入ってくれるみたいだし、両手に花だな。明日香と蘭に囲まれての入浴は興奮するに決まっている。健全な男子高校生なら、興奮せずにはいられない。可愛い女子と入るんだからな。

「とある島に根っこを器用に動かし、密かに生活している木がいるという噂があった」

 明日香に促され、樹木はアイデアの続きを話し始めた。

 そういう世界観なのか。そんなことより明日香と蘭は全裸で俺と一緒に入るつもりなのだろうか? それともタオルを巻いて入るのだろうか? 俺としてはタオルを巻いて入ってもらいたい。裸を見たくないわけじゃないが、どこに視線を向けたらいいのかわからないからな。さすがにずっと裸を見るわけにもいかない。

「その島では木は人間と同じように生活している。朝になったら起きて昼間は遊んだり働いている。夜になれば寝る生活を送っているんだ」

 朝と夜の生活はまあ良いとしよう。問題は昼だ。木はいったいどこで働いているんだ? どういう仕事をしているんだ? ファミレスの店員とかか? もしそうなら衛生状態に問題がありそうだけど。

「木は島の観光ガイドとして働き、島の活性化を図っている。島の名産品をPRし、大勢の観光客でにぎわせるのが目標なんだ」

 さっき密かに生活しているって言ってなかったか? アピールしまくりじゃねえか。密かに生活する気なんてないだろ。噂でも何でもなく、そういう島があるという認識だろ。

「観光地としては有名なのかしら? もしそうなら密かに生活なんてできないわよね」

「え? あっ! ゴ、ゴホン……しかし、困ったことに観光客の中には名産品を盗む輩がいるんだ」

 どうやら樹木は密かに生活しているという設定を忘れていたようだな。自分で言っておいて、忘れるとはな。明日香の指摘に焦ったのか、樹木は冷や汗をかいていた。

「ちなみに観光客の名前は氷河だ。島の名産品を盗むなんて思わなかった。そんなことはしないと思っていたのに、見損なったぞ! 氷河は最低野郎だったんだな」

 樹木はギロリと俺を睨んできた。勝手に俺を窃盗犯にしておいて睨むことはないだろう。というか俺を窃盗犯にした樹木の方が最低野郎じゃないか?

「氷河が盗みを働いたことをお兄さんが知ったらショックを受けるはずよ。お兄さんには言わないでおいてあげるから、盗んだものを出しなさい」

「……悪いな、明日香。恩に着る……って俺は何も盗んでねえよ! なんで俺だけ扱いが雑なんだよ! 俺を登場させなければならないルールでもあるのか?」

「他にアイデアがある人はいるかしら?」

「シカトかよ!」

 明日香は俺の発言を無視し、周りを見渡した。明日香に対するイライラが募り始めた。イライラを抑えるために、全裸の明日香を数えることにした。

 全裸の明日香が一人、全裸の明日香が二人。

「……全裸の明日香がさんに……ふぬおっ?」

 突然、股間に激痛が走る。あまりの激痛に俺は机に突っ伏した。股間がヒリヒリする。誰だ、俺の股間を蹴り飛ばしたのは? 

 痛みを堪えながらも顔を上げると、鬼のような形相で明日香が俺を見下ろしていた。背筋がゾッとした。明日香が俺の股間を蹴り飛ばしたのだ。自分の全裸を想像されたのが嫌だったのかもしれない。しかし、一緒に風呂に入ろうと提案したのは明日香だ。少しくらいなら想像したっていいじゃないか。

 目だけでなく、股間も傷つけられたのだから、それくらいの権利はあるはずだ。

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