第五話 薄弱に試着させちゃおう部④
輪廻と薄弱の腕に刺さった死の槍の数は合わせて四本だ。もっと放っているはずなのに、残りの死の槍はいったいどこへいったのか?
「疑問に感じているんだね、輪廻先輩。残りの死の槍はどこへいったのか? 教えてあげるよ」
菫がニヤリと口角を上げた瞬間、三体の人形の手に死の槍が出現した。
「すべて投げ返さずに隠し持っていたわけね」
「そうみたいだな。それに幻覚で作り出した死の槍を紛れ込ませている可能性もある」
「その可能性は十分に考えられるわね」
ひと目見ただけでは本物か幻覚かの区別がつかない。もし幻覚による死の槍を投げ続けられたりしたら、体力を奪われかねない。長期戦に持ち込まれたら、こちらが不利になる。
その事態を避けるには本物を投げたと確信を得たときに勝負を仕掛けるしかない。
「この攻撃を避けられるかな? 蘭、お願いね」
「うむ、任せておけ」
蘭が頷いた直後、三体の人形が死の槍を一気に放ってきた。
「死の糸」
輪廻は手から霧に酷似した物質(死の現象)を出現させ、糸状に形成し、死の槍に巻き付けようとした。しかし、すり抜けてしまう。すべて幻覚だった。
「うむ、本物はこっちだ」
突如、三体の人形の背後から手が出現し、死の槍を投擲してきた。
「え? 手だけ?」
一瞬戸惑ったものの、輪廻はすぐに死の槍を解除した。
「そう来ると思ってたよ、輪廻先輩」
「小型の人形」
三体の人形の口内から、無数の小型の人形が放出された。
「死の槍を解除するタイミングを伺ってたんだよね。タイミングを見計らって解除すれば、私たちの動揺を誘えると思ったんだろうけど、残念だったね」
輪廻の考えは菫に読まれていた。
「……読まれていたとはね。死の槍」
輪廻は死の槍を一本だけ形成し、手に握った。迫りくる小型の人形を死の槍で次々と薙ぎ払う。小型の人形は地面に落ちてゆっくりと消滅していく。
「うむ、これならどうだ?」
突如、真ん中の人形が小型の人形を放出しつつ、しゃがみ込む。人形は両手を伸ばし、二体の人形を掴んで放り投げてきた。二体の人形は小型の人形を放出しながら勢いよく迫ってくる。
「あの二体は俺が何とかする。一本だけでいいから死の槍を貸してくれないか?」
薄弱は輪廻を守るように立ちはだかり、拳で小型の人形を打ちのめしていく。
「分かったわ。あの二体は任せたわよ、薄弱君」
輪廻は手に持っていた死の槍を薄弱に渡した。薄弱は死の槍を受け取ると同時に二体の人形に向かって走り出す。薄弱は迫りくる小型の人形をものともせずに次々と撃破していく。
輪廻はすぐに死の糸を薄弱の腰に巻き付けた。
「縮め、死の糸」
糸は縮まっていき、輪廻の体が浮き上がる。瞬く間に薄弱の背中が数十センチの距離にまで迫る。
「薄弱君、ジャンプして! 早く!」
「え? ああ、分かった」
薄弱は言われるがままジャンプした。と同時に糸から手を放した輪廻はロケットの如く、しゃがんでいる人形に激突し、ふっ飛ばした。
チラリと背後を振り返ってみると、薄弱は上空で体を回転させ、二体の人形を真っ二つにしていた。
「うむ、よそ見をしている場合ではないぞ」
輪廻は背後を振り返り、驚愕した。蘭の右腕が黒く変色していた。白い線が指の先まで伸びており、人形の腕に酷似していた。
「蘭さん……その腕は何なの? 壊死してるの?」
「うむ、壊死はしていない。これは人形の腕だ。私は人形を作るだけじゃなく、自分の体を人形に変えることもできるのだ」
輪廻はそのことに驚いたものの、すぐに体勢を整え、薄弱の隣にまで後退した。
「ちょっと薄弱君。何で蘭さんが自分の体を人形に変えれることを教えてくれなかったのよ」
「え? 何でって聞かれなかったから」
薄弱は戸惑った表情をしながらも、輪廻の問いに答える。
「そのことを知らないんだから、聞けるわけないじゃない」
「輪廻先輩の言う通りだな。すまなかった」
薄弱は輪廻に向かってペコリと頭を下げた。
「仕方ないから、辱めの刑で許してあげるわ」
「は、辱めの刑? 何をするつもりなんだ?」
薄弱は怪訝な表情で輪廻を見つめる。しかし、輪廻は満面の笑みを浮かべるだけで問いかけには答えず、薄弱の背後に立った。
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