第五話 薄弱に試着させちゃおう部③
「2組とも準備はいいかしら? それでは始め!」
明日香の合図で勝負は始まった。
「死の槍」
輪廻は明日香の合図とほぼ同時に手から霧に酷似した物質(死の現象)を出現させ、槍状に形成し、菫たち目掛けて無数の死の槍を放った。
「青色の花による壁」
突如、無数の青色の花が出現し、五枚の壁を作った。菫たちの正面に五枚の青色の花による壁が縦に並べられた。
ドドドド、と死の槍が一枚目の青色の花による壁にぶつかった。ものの数秒で死の槍は一枚目を突き破り、二枚目、三枚目と突き破っていくが、四枚目で勢いが止まった。
「なるほど、縦に並べることで勢いを殺したのね」
もう一度死の槍を放っても、青色の花による壁とやらに止められてしまうだろう。しかし、蘭の能力が分からない以上、ここは死の槍で様子を窺うべきだ。
だが、その前に確認しなければならないことがある。
「薄弱君はいったい何をしているの?」
なぜか薄弱は背後に回り、輪廻の両手を掴んでいた。
「能力を使うために、準備しているだけだ」
なぜ、両手を掴む必要があるのだろうと輪廻は疑問に感じた。薄弱の能力は聞いていないが、連携を図るためにはあらかじめ聞いておくべきだった。何をするつもりなのか少し不安だ。
「輪廻先輩は死の槍とやらを放ってくれ」
「分かったわ。死の槍」
輪廻が死の槍を放つと同時に、薄弱が即座に触れた。その瞬間、死の槍が消えた。
「消えた? いったい何をしたの?」
「俺の能力で透明にしたんだ」
「それが薄弱君の能力なのね」
「ああ、そうだ」
死の槍の姿が見えないため、位置を把握できないが、もう少しで青色の花による壁にぶつかるのではないだろうか。
「うっ!」
そんなことを考えていたら、腕に激痛が走った。
「ぐっ!」
薄弱も激痛が走っているようだった。
「え? 死の槍が刺さってる? 何で?」
いつの間にか腕に二本の死の槍が刺さっていた。菫たちに放ったはずの死の槍が、なぜ自分の腕に刺さっているのか輪廻には分からなかった。
菫たちの前には依然として青色の花による壁が立ちはだかっていた。
どんな手で死の槍を投げ返したのだろうと思考を巡らせていると、突然、それは姿を現した。
「薄弱君、あれはいったい何なの?」
黒を基調とした生物が三体出現していた。体の中心から白い線が手足の先まで伸びている。顔の中心には楕円形をした赤い目のようなものがある。赤い目は白い線で囲まれていた。
「あれは人形、蘭の能力だ」
「蘭さんの能力……ってかあれは人形なの? 人形の要素が見当たらないんだけど」
「確かに人形には見えない。だが、あれは紛れもなく人形だ。蘭の能力は『人形』。人形を作り出すことができるんだ」
「人形を作れるのは分かったけど、いつ作ったのかしら?」
蘭が人形を作り出す瞬間は見ていない。急に姿を現したのだから。
「……まさか、青色の花の裏で人形を作り出した? それを隠すために解除しなかった? でも、急に現れたのはどうしてなの? もし青色の花の裏で人形を作り出したのなら、飛び出した瞬間に分かるはず」
「藍色の花による幻影で人形の姿を隠したんだ」
「……藍色の花による幻影? それはどういう技なの?」
輪廻は人形を警戒しつつ、薄弱に問う。その瞬間、青色の花による壁が解除され、菫と蘭の姿が見えた。
「私が説明するよ、輪廻先輩。藍色の花による幻影は幻覚の技なんだ。まず青色の花による壁を解除せずに残すことで、蘭が人形を作りだす瞬間を隠したんだけど、それはもう分かってるよね?」
輪廻と薄弱は同時に頷き、続きを促した。
「それでね、藍色の花による幻影で人形の姿を隠した後、青色の花による壁の前で待機させたんだ。移動の際にバレないように、足跡を隠すことも忘れずにね。そして輪廻先輩が放った死の槍を三体の人形が受け止めて、投げ返したんだよ」
なるほど、それで腕に死の槍が刺さっていたわけか。透明にしたことが仇となってしまった。透明にしていなければ、対処できていただろう。しかし、まだ分からないことがあった。
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