第五話 薄弱に試着させちゃおう部②
「ちなみにその衣装は薄弱の私物だ」
「え? 私物? ナース服やセーラー服なんかが入ってたんだけど、冗談よね?」
訝しげな表情で輪廻先輩は薄弱を見た。
「冗談じゃなく、本当に俺の私物だ。そういう類のものを集めるのが趣味なんだ」
「薄弱君は普段から女装をしているの?」
「いや、していない。そういう類のものを集める趣味があるだけで、女装は趣味じゃない。女装するのは部活の時だけだ」
「そ、そうなんだ。まあ、薄弱君って可愛らしい顔立ちをしてるから、似合いそうではあるけどね」
輪廻先輩は一瞬引きつった表情をしたものの、すぐにクスリと笑った。薄弱の可愛さに気づいたのだろう。薄弱は可愛らしいから、どんな衣装でも似合うのだ。
「薄弱君は小柄だし、セーラー服とか似合いそうね。薄弱君の衣装はセーラー服に決めたわ」
輪廻先輩はセーラー服を薄弱に渡した。
「ところで下着はどうするの? 女物を穿くの? それとも男物?」
「下着は男物を穿いている」
薄弱は輪廻先輩の疑問に答えた。
「輪廻先輩のパンツを借りるのはどう――」
言い切る前に輪廻先輩に思いっきり顔面を殴られた。何もしていないのに、顔面を殴るなんてな。輪廻先輩め、理不尽すぎないか? 俺がいったい何をしたというんだ?
「氷河君! ナイスアイデアよ!」
輪廻先輩は俺に向かって満面の笑みで親指を立てた。
「だろ? ってだったら何で俺は殴られたんだ?」
「何となくよ」
「何となくで人の顔面を殴るなよ! 先輩だからって許さねえぞ!」
俺は輪廻先輩を睨みつけた。
「……んっ」
輪廻先輩は制服のスカートを捲った。チラリと純白の下着が見えた。
「……何となくで人を殴りたくなる時もあるよな」
「許さないんじゃなかったのか?」
「下着に罪はねえだろ!」
「確かにな。しかし、下着を見せてくれただけで許すとはな」
薄弱は呆れたようにため息をついていたが、俺は見逃さなかった。薄弱の視線が輪廻先輩の下着に釘付けになっているのを俺は視界の端で捉えていた。
「何ため息ついてんだよ。輪廻先輩の下着に釘付けだったくせに」
「くっ、バレていたか!」
薄弱は悔しそうな顔をしているが、輪廻先輩本人も気づいてただろうな。
「え? 薄弱君が私の下着に釘付けだったって?」
気づいていなかった。嘘だろ? 薄弱は堂々と下着を見ていたのに、気づかないなんてことがあるのか?
「薄弱君って変態なのね。まあ、ナース服とかを集めてるくらいだものね。氷河君なら分かるんだけど」
俺なら分かるってどういうことだよ。輪廻先輩め、俺を変態だと思ってるのか? 俺も下着に釘付けだったから間違ってはいないけど。
「それじゃ、セーラー服に着替えて、薄弱君。下着は私のを貸してあげるから」
どうやら輪廻先輩は俺のアイデアを採用するつもりのようだ。
「その代わりといってはなんだけど、薄弱君の下着を貸して。薄弱君に下着を貸したら、私はノーパンになってしまうから」
「お互いの下着を交換するということか」
「そういうことよ」
輪廻先輩は下着を脱ぎ、薄弱に渡した。
薄弱は下着を受け取ってから、セーラー服に着替え、自分のトランクスを輪廻先輩に渡した。
輪廻先輩は薄弱のトランクスを穿き、俺のほうを向いた。
「校庭に行きましょうか、氷河君」
「よし、行くか」
俺たちは部室を出て、校庭に向かった。
☆☆
「似合ってるわよ、薄弱。本当に可愛いわ」
明日香は薄弱の頭を撫でながら言った。薄弱は顔が真っ赤になっていた。
「輪廻先輩が選んでくれたんですよね。素晴らしいチョイスです」
「そ、そうかしら? ありがとう明日香さん」
輪廻先輩は明日香にチョイスを褒められて嬉しそうだった。互いの自己紹介はすでに済ませている。
「校庭で適当に遊ぶって氷河君に聞いたんだけど、具体的に何をして遊んでいるの? できれば私もその遊びに混ぜてくれると嬉しいんだけど」
「基本的には勝負をして遊んでいます。タイマンやタッグ戦、チーム戦などその都度対戦形式は異なります。もちろん輪廻先輩の参加は大歓迎です。私たちの内の誰かと勝負してみますか?」
「ええ、そうさせてもらうわ。後輩の実力を知るのにはいい機会だしね」
「対戦形式や対戦相手は輪廻先輩が選んでください」
輪廻先輩は顎に手を当てて考え込むが、すぐに顔を上げた。
「対戦形式はタッグ戦にするわ。組む相手は薄弱君で対戦相手は菫さんと蘭さんにお願いしたいと思うんだけど、どうかしら?」
「もちろんオーケーだ」
「私もそれでいいよ。輪廻先輩に私の力を見せつけちゃうから、覚悟してね」
「うむ、私もそれで構わないのだ」
輪廻先輩たちを校庭の真ん中に残し、俺たちはそこから離れたところで勝負を見学することにした。
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