第四話 遊園地③
「観覧車に乗ろうよ。上から遊園地全体を眺めてみたいな」
菫がゆっくりと回っている観覧車を指差しつつ、提案をする。
「あたしも上から遊園地全体を眺めてみたいから、観覧車に乗ろうよあーちゃん」
女琉さんは観覧車を指差し、こちらを見る。
観覧車を見ると、遠目だから少し分かりづらいが、おそらくキスをしているのだろうと思われる人影がちらほらと見受けられる。どうせ不細工カップルが二人だけの空間だからとキスをしているんだろうけど。
「そうですね。観覧車に乗りましょうか」
私たちは観覧車乗り場に並び、順番が来るのを待った。
すぐに順番が来て、私と菫は並んで座った。女琉さんは正面の座席に腰を下ろした。
「人が豆粒みたいに見えるね」
菫はガラスに両手を置いて、遊園地全体を眺めていた。
「なんだかミニチュアを見ているような感じだよ」
女琉さんの言うとおり、ミニチュアに見えなくはない。
豆粒みたいに小さく見える大勢の人たちが歩き回っている。
「あれ? なんかの大群が向かって来てるよ、お姉ちゃん、女琉さん」
菫は反対側を見ていたが、首を傾げて呟いた。私も反対側を見た。鳥の大群が向かってきている。
「このままだとぶつかるね。どうするあーちゃん?」
「こうします」
私は闇の反射を鳥の大群がぶつかる直前に発動させた。鳥の大群は薄く延ばされた丸く黒い物体に吸い込まれていく。それを反対側に出現させる。鳥の大群は何事もなかったかのように飛びだっていく。その身に闇を纏わせて。
「私たちと鳥の両方に怪我がなくて良かったよ。ねえ、お姉ちゃん、女琉さん」
菫は私と女琉さんを見て笑った。
「うんうんそうだね」
「そうね、菫」
私は菫の頭を撫でる。
「お姉ちゃんがやらなかったら、私がやってたよ。私だと鳥は怪我を負うだろうけどね」
確かに青い花による壁にぶつかった衝撃で鳥は怪我を負うだろう。下手をしたら、死んでいたかもしれない。
「まあ、怪我を負ったら負ったで、治せばいいだけだけどね」
「菫なら簡単に治せるけれど、私なら怪我を負う過程を省略できるし、結果的には私がやってよかったわね」
「そうだね、お姉ちゃん」
菫は抱きついてくる。
「あたしも!」
女琉さんも抱きついてきた。これではガラスから遊園地全体を眺められないけれど、別にいい。もう眺めたし。
そうこうしているうちに観覧車は地上へと戻ってきた。
「次は何に乗りたい?」
私は菫と女琉さんに聞く。
『ゴーカート!』
菫と女琉さんは同時に言った。
「それじゃ、ゴーカート乗り場に行きましょうか」
☆☆
ゴーカート乗り場に並び、順番を待つ。
「せっかくだし、勝負しましょう」
私は順番を待っている間に提案をする。
「一番速く一周した者の勝ちってことで。勝者には両頬からのキス……寸止めが贈られます」
「え? 寸止め? キスじゃないのお姉ちゃん?」
菫はがっかりしたような表情で私を見る。
「寸止めだとモヤモヤするよあーちゃん」
女琉さんもがっかりしたような表情をしていた。
「順番が来たようね。さあ、乗りましょう」
私たちはゴーカートに乗った。右が菫、左が女琉さんだ。
アクセルを踏み込み、発進させる。スピードはあまりでないが、良しとする。今のところ私が一歩リードしている。
チラリと右に視線を向けると、菫がハンドルを左に切るのが見えた。菫の乗るゴーカートが、スレスレまで寄ってくる。
今度は左に視線を向けると、女琉さんがハンドルを右に切って、スレスレまで寄ってきた。
「ぶつけないように気をつけなさい。危ないわよ」
終盤に差し掛かって、私は強くアクセルを踏み込む。その結果、私が勝った。
私は勝利したことに満足しながら、ゴーカートから降りた。
「私の勝ちだから、菫と女琉さん。キス寸止めを」
菫と女琉さんは私の両隣に立って、キス寸止めをした。その直後に両頬に唇の感触がする。
「寸止めの距離感をミスちゃった。キスしちゃったけど、許してお姉ちゃん」
「あたしも寸止めの距離を測りきれなくて、キスしてしまったよあーちゃん。許して」
きっと二人とも距離を測りきれていながら、キスをしたのだろう。そんなに私とキスをしたかったってことだろうけど。
「許してあげるわ。それで次は何に乗る?」
「子供っぽい感じはするけれど、コーヒーカップがいいな」
数秒考えた後に菫は答えた。
「ではコーヒーカップにしましょう」
私たちはコーヒーカップへと足を向けた。
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