第四話 遊園地②
マジックハウスの中は人気があまりないのか人影がまばらだった。でも混雑していないし、私としてはラッキーだ。
菫はこちらを振り向いた。
「あれ、お姉ちゃんの下半身がないよ! ど、どこに置いてきたの、お姉ちゃん!」
菫は言いつつ、辺りを見回す。どこにも置いてきてないんだけど。
「うわぁ、あーちゃんの下半身がない! 上半身が浮いているよ!」
女琉さんは驚きの表情で、私をじっと見つめる。
「そんなに驚かれるとは思わなかったわ」
私は呆れながら、横に移動した。
「あれ? ちゃんと下半身ついてる?」
「さっきまであーちゃんの下半身なかったのに?」
驚いている菫と女琉さんを手招きして、さっきまで私がいた場所を見せた。
「あ、なるほど」
菫は納得の表情を浮かべた。鏡を使った単純なトリックだ。
少し進んで行くと今度は斜めになったレールがあった。その横には小さな鉄球を乗せた台があり、それを手に取って手前のレールに落とす。そうすると鉄球はレールを下から上へ登っていく。
このレールでそうめんを流してみたい。鯉の滝登りならぬそうめんの滝登り……ちょっと面白そうだ。
「やばい、そうめん流したくなってきたよ」
菫も私と同じ事を考えていたようだ。さすが姉妹。
「最初はいいけど、だんだん飽きてくるわね」
上がっては下がっての繰り返しで飽きてきた。今はもうそうめんを流してみたいとは思わない。
「……うん、そうだね、お姉ちゃん」
「あーちゃんの言うとおり、飽きてきたよ」
菫と女琉さんも同意した。
「そろそろ出ましょうか」
☆☆
「カキ氷屋さんがあるよ。食べよう、お姉ちゃん、女琉さん」
マジックハウスを出て、数分歩いたところにあるカキ氷屋さんを菫は指差した。
「そうね。暑くなってきたし、食べようか」
カキ氷屋さんの列に並び、順番が来るのを待つ。その間に私は味の種類を確認した。イカ墨にタバスコ、溶かしたバターと変わり種ばかりだった。しかも、オススメはソース&マヨネーズ&青海苔ときている。カキ氷屋なのに、オススメがお好み焼きの味とは思わなかった。
どれが一番マシかと思案していると、早くも順番が回ってきた。
「……イカ墨で」
イカ墨でさえ、このラインナップではまだマシな方だった。
「えっと、タバスコで」
菫はタバスコを選んだようだ。
「あたしはソース&マヨネーズ&青海苔で」
女琉さんはお好み焼きを選んだ。まぁ、お好み焼きじゃないけれど。
私たちはカキ氷らしきものを受け取り、ベンチを探して座った。
私は黒い物体を口に運んだ。
「お姉ちゃん、お味はどう?」
菫が味の感想を聞いてくる。
「あんまり、味がしないわね」
「歯真っ黒だよあーちゃん」
「イカ墨を食べたからでしょう。あとで口の中を洗わなければいけないわね」
カキ氷の氷が溶ければ、水になるけれど、イカ墨で水も黒くなるし、それで洗っても余計に真っ黒になるだろうから意味はない。
「……辛い。タバスコだから当然だけどね」
菫はタバスコがかかったかき氷を食べ、若干涙目になっていた。
女琉さんはソース&マヨネーズ&青海苔がかかったかき氷を黙々と食べている。
「女琉さん、どうですか?」
私は女琉さんに味の感想を尋ねる。
「具材が入っていないお好み焼きって感じだねあーちゃん」
そう答えた女琉さんの歯には青海苔が付着していた。
「女琉さん、青海苔ついているよ」
「どのくらいついているすーちゃん?」
「結構ついているね」
「そっか。あたしも口の中を洗った方がいいかな? どう思うあーちゃん?」
女琉さんは視線を菫から外して、こちらに向ける。
「女琉さん。あとで一緒に洗いましょう」
「うん! 洗おうあーちゃん」
女琉さんはどこか楽しげに笑った。いっそう青海苔が目立つ。
「私だけ仲間外れだね! タバスコだから、口の中を洗う必要ないしね」
菫はそう言うと、口を開け、洗う必要がないことの証明を果たしてみせた。
まるで何かの罰ゲームを受けたかのようなカキ氷を食べ終え、私たちはベンチから立ち上がった。
☆☆
私たちは女子トイレの洗面台の前にいた。口の中をすすげる場所といえば、トイレだろう。
「ぐちゅぐちゅ……ぺっ」
私は勢いよく水を吐き出す。水は黒く濁っていた。洗面台の鏡を見て、口の中を確認する。歯だけではなく、舌もまだ黒い。
「ぐちゅぐちゅぐちゅ……ぺっ」
女琉さんも水を吐き出して、鏡で確認していた。
「うん、もう青海苔ついてないね」
私は鏡越しに女琉さんの歯を確認する。青海苔は一切付着していなかった。
「ぐちゅぐちゅ……ぺっ」
私は何度か口の中をすすぎ、歯と舌に付着したイカ墨を洗い流す。
「黒いの取れたね、お姉ちゃん」
私と女琉さんのすすいでいる姿を背後で眺めていた菫が言った。
「そうね。もうこのトイレに用はないわ」
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