第三話 能力レース⑫
「一発でもいいから、攻撃を与えなさい。援護はしてあげるから」
明日香は何体かの闇の影を出現させ、目配せで三人に突撃するように指示する。
『うおおおぉぉ!』
雄叫びを上げながら、三人は菫と狼牙に突撃する。
狼牙はさっきと同じように三人に突進した。が、三人の前に闇の影が立ちはだかる。闇の影は三人の身代わりとなって、消滅する。
その間に明日香は蘭に指示を下す。
三人は闇の影の援護のおかげで、何とか菫と狼牙に攻撃を与えることに成功した。
「人形!」
その直後、天井に届こうかというくらいの大きさの人形が廊下に出現した。人形は駆け出し、仲間共々菫と狼牙を薙ぎ払った。
ボキッと骨が折れる音が廊下に鳴り響く。菫たちはピクリとも動かない。気絶している。
まともに人形の攻撃を受けたのか、菫の左腕の肉が裂け、骨が外側に露出している。瞬く間に左腕周辺に血の海が出来上がる。
明日香の胸には緑色の花による刃が突き刺さっていた。菫が気絶する直前に明日香に向かって、投げたのだ。それは見事に心臓を射抜き、明日香は絶命していた。立ったまま明日香は死んだ。
死んだところで何も問題はない。今は気絶しているが、菫ならば生き返らせることが出来る。死んでからどれほどの時間が経とうが蘇生は可能である。
この廊下にいる中で唯一蘭だけが無事だった。
「…………」
蘭は無言で廊下の惨状を眺める。それから蘭は屋上へと駆け出した。この能力レースに勝利するために。絶命した明日香への手向けのために。
☆☆
「……死んでいる」
俺は明日香の胸に刺さっている刃を見つめる。あの後、女の子の行動に戦意喪失した俺は薄弱たちと一緒に四階へ向かい、明日香の絶命という事態に遭遇した。
刃が刺さった周辺は血液で汚れて、ジャージを真っ赤に染めている。口の両端を血が一直線に流れていた。
「菫たちはどうだ? 薄弱」
「死んではいない。気絶しているだけだ」
菫たちの側でしゃがんでいた薄弱は立ち上がる。
「ただ見ての通り、菫は重傷だ」
菫の左腕は肉が裂けていて、骨が外側に露出していた。どんな攻撃を受ければ、こうなるのだろうか。
「蘭の姿が見えないが、屋上に向かったんだろうな」
俺はまわりを見回しつつ、言った。
「そうだな。で、どうする? 追いかけなくていいのか?」
「追いかけたところで、俺では蘭に勝てないからな。それに追いかけたとしても、もう遅いだろうしな」
そろそろ蘭は屋上に着くことだろう。
『……うぅ』
呻き声を上げつつ、菫たちは目を覚ました。
☆☆
蘭は逆コの字型の廊下を走って、階段を駆け上がる。そして、扉を開いた。目の前に屋上が広がる。
蘭は足を一歩踏み出し、扉から屋上へと出た。
「やったぞ、明日香。私たちの勝ちなのだ」
死んだ友へ蘭は勝利の報告をした。
☆☆
「能力レース勝者は明日香チームだ。おめでとう。約束どおり、奢ろう。お子様ランチをな」
『ブーブーブー』
明日香チームから、ブーイングが起こった。そりゃそうだろうな。お子様ランチはないだろう学園長。
「お子様ランチでは不服か?」
学園長は明日香チームへ視線を向けた。
「ええ、不服です。私たちは高校生ですよ。お子様ランチはないでしょう」
菫の技で蘇生を果たした明日香が代表して、学園長に告げる。血液で真っ赤に染まっていたジャージもキレイな状態に戻っている。
「それじゃあ、ラーメンを奢ろう。これなら、文句ないだろう?」
「ええ、ないです」
明日香はほほ笑んだ。
俺もラーメンを奢ってもらいたかったな。負けたから、仕方ないけどな。
そうそう、女の子に靴下代を渡さないとな。
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