第三話 能力レース⑩
俺は水の鎖が巻きついたままの机を先ほど振り回した方向へと逆走する様に振り回した。
『ふぬぉ!』
同じ連中に激突した。……早めの再放送? その間に菫が狼牙を連れて教室を出たのが見えた。
『一度ならず二度までもぶつけるなんて! 二度あることは三度あるというし、三度目あんじゃね?』
何か軽いな。お望み通りかは置いておくとして三度目を与えてやる。
水の鎖が巻きついた机を先ほどの方向へと戻すように振り回した。
『ぐおぉ!』
案の定、同じ連中にぶつかった。と言うより自分から当たりに行っていた。
「何やってんだ、お前ら」
薄弱が呆れたように呟いた。
『三度目を実行したんだ。もう思い残すことはねえ』
なぜか清々しい表情で言った。
「それで満足するな」
薄弱は連中を睨みつけた。連中はびくりとし、戦闘体勢を取り始めた。俺たちも戦闘体勢を取った。
俺はもう一度、水の鎖が巻きついた机を振り回す。
「はっ!」
薄弱は回し蹴りを放ち、俺に向かって机を蹴飛ばした。俺は慌てて避けた。机は壁に激突する。
「うぅ」
薄弱は脛の辺りをさすっていた。痛かったんだな。弁慶の泣きどころにでも当たったか。
「ふぅ~、よし」
薄弱はさするのをやめた。若干、涙目だ。
俺は仲間を手招きした。
「――――――――」
菫の指示を仲間に耳打ちした。
「分かった」
仲間は頷いた。
「砂」
仲間は指示に従い、薄弱たちの周りに砂を浮遊させた。
「水の放射」
菫が与えてくれた指示に従って、俺はかかと周辺から水の渦を噴出させ、加速し、円を描くように薄弱たちの周りを走る。
「…………?」
薄弱は訝しげな表情で俺を見た。俺の行動の意味が分かっていないのだろう。いやでもすぐに意味を知ることになる。
俺は薄弱たちの周りを何度も走った。瞬く間に砂は竜巻と化した。
『目がいだい~! チクチクする!』
薄弱たちは必死に目をこすっている。
「ぎゃあ! いだい~!」
俺は目の痛みに叫びを上げ、必死にこすった。
「何でお前までこすっているんだ」
薄弱がどこか呆れたように言った。
「俺も被害を被ってんだよ。砂の周りを走ってたからな。俺が一番被害に遭っているかもしれないな」
俺は目をパチパチとさせる。ああ、チクチクする。痛い。これが原因で視力が低下しないことを祈るばかりだ。
俺は砂の竜巻から離脱する。
「させるか! 木」
足に何か巻きついてきた。見ると太い木が巻きついていた。
「ふぬぉ!」
バランスを崩し、床に顔面をぶつけた。何とか木から逃れようとするも外れない。そのままずるずると引きずられていく。
「ぎゃああああ! いだい! あづい!」
俺は床に顔面をこすりつけられた。摩擦で顔が熱い。痛さと熱さに身悶えながら、砂の竜巻の中に引きずり込まれた。
『地獄に落ちるがいいわ! ふはははは!』
「ひでぇ!」
俺は砂の竜巻による目の激痛に苛まれつつ叫んだ。
薄弱は砂の竜巻から離脱した。他の者たちも薄弱の後に続いて離脱した。なぜか俺を踏みつけながら。
「おい、踏みつけるな。痛いだろ!」
薄弱だけは踏みつけなかった。いい子だ。
『痛い目にあわせた罰だ!』
目と目をかけてるのか?
『氷河! 今助けるぞ!』
「ああ、頼む」
できれば、もう少し早く助けに入ってもらいたかった。
「させると思うか」
薄弱は跳躍し、先頭にいた仲間に飛び蹴りを喰らわせた。
「うっ!」
仲間は吹っ飛び、後列にいた仲間にぶつかった。その仲間がさらに後列にいた仲間にぶつかって、ドミノ倒しの如く倒れていった。なぜ、一列に並んでいたのかは置いておくとしてだな。
「大丈夫か、お前ら」
『心配するな、大丈夫だ』
とか言いながら震えてるんだけど。本当に大丈夫なのか。
「ひれ伏すがいいわ! くらえ、氷河砲弾!」
嫌な予感がする。それしかしない。
俺は身体を持ち上げられた。足が木から解放され、仲間目掛けて砲弾の如く放たれた。このままじゃ仲間にぶつかる。何とか避けてくれ。
「はあぁぁぁぁ!」
仲間は避けずに俺の顔面を殴りやがった。何で気合い入れてんだよ。殴る気満々じゃねえか。助けてくれるんじゃなかったのか。
俺は吹っ飛んで床に後頭部をぶつけた。意識を失いかけたじゃねえか。
「どうした、氷河? 一体誰にやられたんだ。くそ!」
お前だよお前。
「自分でやっておいてそれはねえだろう」
俺は後頭部を押さえつつ、立ち上がった。
「あのままじゃ俺は怪我してたんだぞ! お前だけで済んでよしと思え!」
「俺が悪いのか?」
「当然だ、砂!」
仲間は言いつつ、薄弱たちに砂を放った。一瞬、俺に攻撃するのかと思ってびびった。
「……はっ!」
仲間はどういうわけか息を呑み、慌てたように俺に砂を放ってきた。
「え?」
俺は驚き、反応に遅れる。避けきれずに砂を喰らってしまった。
「さっきは空気を読んで攻撃するべきだった。すまん、氷河!」
そういう空気は読まなくていい。勝つ事だけを考えろ。
「それに気づき、攻撃できたからよかった」
仲間は安堵したように息をついた。安堵してんじゃねえよ。まったくもってよくない。
「よくはないだろ。攻撃喰らってんだぞ」
「みんな行くぞ!」
『おぉ!』
仲間は薄弱らに向かっていく。
「スルーされた」
俺はがっくりとうなだれる。
「砂!」
仲間は薄弱たちに向けて砂を放つ。
「木!」
相手の一人が木を生成し、砂を防いだ。弾かれた砂が床に散らばる。
木が蠢き、何本にも枝分かれし、襲い掛かってきた。先が尖っている。あんなのに貫かれでもしたら即天国行きだな。いや、逝きだな。
「水の鎖」
水の鎖を鞭のようにしならせ、迫りくる木を攻撃する。攻撃を重ねて、木を自分に近づけないようにする。
別の木が襲い掛かってくる。水の鎖をもう一つ作り出し攻撃する。二刀流ならぬ二鎖流だ。
木を水の鎖で防ぎつつ、俺は仲間を見た。
『うおぉ!』
仲間は迫りくる木を避けるが、すかさず薄弱に蹴られて吹っ飛ばされていた。
「……なっ!」
木の数が四本に増えていた。仲間に気を取られて気づかなかった。二つの水の鎖では防ぎきれない。
俺は二つの水の鎖を身体に巻きつけた。刃が少し身体にめり込む。
「何のつもりか知らんが、くたばれ!」
四本の木が迫る直前、俺は身体を回転させた。
「ほう……考えたな」
何様だ。本当に分かっているのか。
四本の木の先が水の鎖の刃によって削られていく。尖った部分が削られて丸くなった。
「おっと」
回転が緩まって、俺は止まった。直後、四本の木が身体に激突した。先が丸くなっていたため、貫かれることはなかった。どちらにしろ怪我は負うが、貫かれるよりはましだ。
「水の放射」
俺はかかとから、水の渦を噴出した。
相手に近づき、回転を加えた拳を腹に叩き込んだ。
「ぐあ!」
相手は吹っ飛び、倒れた。
「一人は倒したぞ」
「そうか。俺は十二人も倒したぞ」
薄弱の声がし、その方向を見る。仲間は床に倒れていた。
十二人も倒した薄弱に俺一人だけで勝てるわけがない。俺は潔く降参することにした。
「参り……」
「はぁぁ!」
言う前に薄弱に殴られた。最後まで言わせろよ。
『目の敵だ!』
まだ言うか。
薄弱以外の者が襲い掛かってきた。
感想頂けると幸いです。




