第三話 能力レース⑨
菫たちは砂に埋もれた。ほんの微かだが隙間から青いものが窺える。
「ふ~ん」
何とか衝撃を軽くしたようだが、重傷とまではいかずとも無傷ではないだろう。
「さて、行きましょ」
明日香は曲がり角を折れて奥へと進んだ。三階へ進むための梯子を上り、教室の中に出る。三階には四部屋の教室があり、梯子は三番目の教室の室内に繋がっている。
明日香は仲間の一人を呼び、木で塞いでおくように命じる。
「木」
仲間は木を生成し、ルートを塞いだ。
「十人ほどここに残ってもらうわ」
明日香はみんなを見回した。
「突破される可能性を考慮してね」
明日香は薄弱を含めた十人に教室に残るように命じた。
明日香を含めた残りのメンバーは教室を出ていく。
☆☆
俺たちは砂の中から蛇のように這い出た。
「ギリギリ間に合ってよかった」
菫は安堵したように息をついた。菫の青色の花による壁のおかげで何とか助かった。これがなければ押し潰されていた。
「さあ、三階に行こう」
菫は急いで奥へと進んだ。俺たちは後についていく。
「あ、塞がれちゃってる」
菫は呟き、足を止めた。
その発言を聞き、俺は天井を見上げる。三階へのルートは木で塞がれていた。
「俺に任せてくれ。すぐに道を開けるから」
「うん、任せたよ」
菫は横に退いた。
「水刃」
俺は水の刃を八本だけ形作り、両手に挟み込んだ。
「水の放射」
続いて俺はかかと周辺から水の渦を噴出させ、ルートに向かって加速する。威力が上がった水の刃をルートを塞いで邪魔くさい木に突き刺す。そのまま木を突き破り、教室へと出た。
「はっ?」
何者かの蹴りが飛んできた。
「ぐへぇ!」
顔面を蹴飛ばされ、俺は教室の壁まで飛ばされた。見ると薄弱が足を上げていた。どうやら、薄弱が顔面を蹴ったようだな。
「水の鎖」
水で形作った無数の刃を繋げて構築した鎖を近くの机に巻きつけた。俺はそれを薄弱目掛けて、鉄球の如く振り回す。
薄弱は一歩下がって机を避けた。
『どわっ!』
机は他の奴らに激突し、何人か床に倒れた。
「氷河」
菫たちがルートから、上がってきた。菫が近づいてくる。菫はざっと俺の顔を見た。
「大丈夫でしょ」
「勝手に決め付けるな。痛いからな、鼻の辺り」
俺は立ち上がりつつ、鼻を擦った。
「痛そうではあるよね。鼻赤くなってるし」
「え? 赤くなってんのか? ピエロの鼻ぐらいに?」
「そこまで赤くなってないよ。せいぜい鼻水が混じって薄くなった鼻血程度かな」
菫が言いつつ、俺の鼻を触ってくる。こそばゆいな。視線を上げると、木が迫ってくるのが見えた。
「獣ワニだぜ!」
狼牙が鰐に姿を変貌させた。
「鰐の噛み砕きだぜ!」
狼牙は迫り来る木を次々と噛み砕いていく。
「ぐはっ……だぜ!」
いつの間にか薄弱が狼牙に接近し、腹を殴っていた。そしてよろめいた拍子に、薄弱は狼牙を蹴り飛ばした。狼牙は吹っ飛び、俺に激突してきた。菫は横に飛びのいて、それを避けていた。
「すまん、氷河だぜ!」
「いいってそんなの気にすんな」
俺と狼牙は同時に立ち上がった。
「氷河、ここは任せていい?」
菫が俺の目を見つめてくる。
「もちろんだ」
「それとね」
菫は俺に一つの指示を下し、俺は頷いた。後でその指示を実行に移そう。
「これで攻撃するから、その間に教室を出ろ」
「うん」
菫は頷いた。
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