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スプリングナイフの氷河  作者: 神通百力


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第三話 能力レース③

 菫は壁から顔を覗かせて、氷河が階段を上がったのを確認した。

 廊下を見ると、大勢の闇の影と人形の隙間から、明日香が内容までは聞き取れないが、何か指示を出しているのが見えた。その時、背後に気配を感じた。振り返ると、狼牙が睨んでいた。狼牙だけじゃなく、他の者たちも睨んでいる。

「菫。氷河に対してひど過ぎだぜ! 何もゴミ呼ばわりしなくてもいいだろだぜ!」

 うん。狼牙の言葉使いもひどいよ。だろだぜって、ですを二回続けて言っているようなもんだよ。多分だけど。

「……氷河が悪いんだよ。嘘呼ばわりするから。ゴミ呼ばわりされる当然のことをしたんだからね」

「菫、お前のこと見損なったぜ!」

 狼牙は氷河を追うように階段を上がった。他の者たちも続いて階段を上がる。それに気づいた闇の影と人形が背後から襲いかかろうとしていた。菫は意を決して廊下に出た。その瞬間、闇の影が向きを変え、こちらに襲い掛かってきた。

赤色の花による(レッドフラワー)破壊デストロイ

 赤色の花が出現し、輪を作った。その中心に高密度のエネルギーが発生して赤色の光線となって放たれた。

 ゴゴゴゴ、と凄まじい音を奏でながら突き進み、前列にいる闇の影を消滅させた。さらに後列に控えていた人形までも消滅させた。

 明日香は闇の(ダークネス)反射カウンターを発動し、薄く延ばされた真っ黒な円形の物体が出現した。

 勢いを殺さぬまま赤色の花による(レッドフラワー)破壊デストロイ闇の(ダークネス)反射カウンターに衝突し、バチバチ、と火花を散らせた。

 衝突したことによって発生した衝撃波に菫は耐えられずに吹っ飛ばされてしまった。

「ぐわっ!」

 菫は後ろの壁に激突し、肺から空気が吐き出された。衝撃波で建物がほんの少しだけ揺れた。

 明日香と蘭を見た。二人は吹っ飛ばされていなかった。

 何で? これほどの衝撃波で吹っ飛ばないなんてことがあるのだろうか? 

 不思議に思って、じっと見る。明日香と蘭の腰辺りに手が見えた。背筋がゾッとした。まさかあれは。

「お姉ちゃん! う、後ろに幽霊がいるよ!」

 菫は息を吸い込み、全力で叫んだ。

「は? 幽霊? 何を言っているの菫!」

 明日香は叫び返してきた。

「だ、だって腰に手があぁ!」

 菫は明日香の腰を指差した。

「ああ、これね。人形ドールの手よ!」

 明日香が笑いながら、叫び返してきた。

 え? 人形の手なの? 見ると蘭も笑っていた。

 菫は恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にして俯いた。そうか。人形が腰を掴んで支えていたから、吹っ飛ばなかったのか。

 突如、ズギューン、と音がした。顔を上げると、赤色の花による(レッドフラワー)破壊デストロイ闇の(ダークネス)反射カウンターに吸い込まれていた。

 やばい。反射される。ギリギリまで待って避けるしかない。

 菫は身構えた。が、反射はされなかった。

 驚いたことに明日香は闇の(ダークネス)反射カウンターを解除した。

 反射する気がないのならば、なぜ闇の(ダークネス)反射カウンターを使ったんだろう。それならば、闇の(ダークネス)無効アウトを使えばよかったのではないだろうか。それを使えば、 赤色の花による(レッドフラワー)破壊デストロイを簡単に消滅できるのだから。

「疑問に感じているでしょ。なぜ闇の(ダークネス)無効アウトを使わなかったのか」

 明日香の言うとおり、菫は疑問に感じていた。

「教えてあげるわ。菫の赤色の花による(レッドフラワー)破壊デストロイは強力な技。それを消滅させるのはもったいないと思ったの。これが闇の(ダークネス)無効アウトを使わなかった理由よ」

 なるほど、それで明日香は使わなかったんだ。明日香に強力な技と言ってもらえて嬉しかった。

「それと闇の(ダークネス)反射カウンターをあのタイミングで解除したのは、切り札としてとっておこうと思ったのよ」

 切り札か。やばいかも。明日香の闇の(ダークネス)反射カウンターは吸収した技に闇を纏わせることで攻撃力を上げてから反射する。そのため明日香が仮に切り札を使ったとして、それを喰い止めるために赤色の花による(レッドフラワー)破壊デストロイを使っても押し負けてしまうのだ。

「さて、そろそろとどめと行きましょうかね。蘭」

「うむ、人形ドール

 三体の人形が現れた。

小型の(スモール)人形ドール

 三体の人形の口内から、無数の小型の人形が放出された。すぐに明日香と蘭が見えなくなった。

青色の花による(ブルーフラワー)ウォール

 菫も負けじと技を繰り出す。菫の前に無数の青色の花が壁となって出現した。ドドドド、と小型の(スモール)人形ドール青色の花による(ブルーフラワー)ウォールにぶち当たる音がする。

 やがて亀裂が走り、青色の花による(ブルーフラワー)ウォールは破壊された。

「あ! うわ!」

 菫はすぐに腕を交差した。小型の(スモール)人形ドールが容赦なく菫にぶつかった。ミシ、と骨の軋む音が聞こえた。

「うっ!」 

 腕に激痛が走った。もしかしたら、骨が折れたかもしれない。

 菫は体中に駆け巡る激痛に耐えかねて床に跪いた。ポタポタと血が流れ、廊下に小さな血の海を構築した。

藍色の花による(インディゴフラワー)幻影ルージュ

 菫は自分の幻覚を無数に作り出し、自分自身の姿は幻覚で隠した。

「ふ~ん。幻覚で自分の姿を隠して攻撃するつもりね。そううまくいくかしらね」

 菫は徐々に明日香に近づいた。どういうわけか明日香は目を瞑った。何で目を瞑ったのか考えたところで分からないから、考えるのを放棄した。

 明日香と蘭の周りを自分の幻覚で埋めつくした。

 菫は明日香の真横まで近づき、飛び掛った。

「がふ!」

 その瞬間、明日香の鋭い蹴りが菫の腹に叩き込まれた。菫は吹っ飛んで壁に激突した。

「ごぶっ!」

 菫は思わず女の子らしからぬ声を上げてしまった。壁に激突した衝撃で吐血し、ベチャリ、と血が廊下に落ちた。

「……な、何でわ、私の位置が分かったの?」

 菫は明日香に問いかけた。

「それは至極簡単なことよ。幻覚は実体がないから、足音がしない(・・・・・・)のよ。目を瞑って耳に神経を注げば微かに足音がする。それは当然 本物の足音(・・・・・)

 明日香は不敵な笑みを浮かべた。

「もう動かない方がいいわ。そこで安静にしときなさい」

「私はまだやれるよ、お姉ちゃん」

 明日香は菫の前にしゃがんだ。

「後は仲間に任せなさい」

「でも」

「仲間のことを信じられないの?」

「そんなことない。氷河や狼牙たちのこと信じているよ」

 菫は明日香の目を見て言った。

「ふふ、氷河の事大嫌いと言ってたのに信じるのね」

「え? 聞こえてたの、お姉ちゃん」

「ええ、聞こえてたわよ。私、耳がいいから」

「えっと、その何というか」

 菫は口ごもった。何て言ったらいいのか分からなかったからだ。

「分かっているわ。わざと怒らせて先に行かせたのでしょ。一人でもゴールすれば、そのチームの勝利だしね」

「筒抜けだね」

 菫は肩をすくめると、全身から力を抜いた。

「姉だからね」

 明日香はそう言うと、振り返った。

「それじゃあ、二階に上がろうかしらね。行くわよ、蘭」

「うむ」

 明日香と蘭は二階に上がっていった。

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