第三話 能力レース②
扉を開けて入ると、廊下が奥まで真っ直ぐにのびていた。俺は真っ直ぐにのびた廊下を進み、曲がり角で折れようとした。
「ぐえっ」
菫に首根っこを掴まれた。ほんの一瞬だけ息が止まった。俺を殺す気か。
「ダメだね、氷河は。ここは慎重にいかないと。待ち伏せされているかも知れないからね」
菫は俺の首根っこを掴んだまま言った。
「ここは少しだけ顔を出して様子を見……」
菫は壁からほんの少し顔を出し、絶句した。
「菫。一体どうしたんだぜ!」
狼牙が菫に問いただした。
「あのね、廊下にお姉ちゃんの闇の影と蘭の人形が仁王立ちしてるんだよ。待ち伏せされているかもしれないとは思ったけど、まさかあんな大勢で待ち伏せしているとはね」
菫はどこか困った表情をした。
「そんな……嘘だろ」
俺は思わず呟いた。
「嘘なんかついてないよ。私の言葉を嘘呼ばわりして……氷河なんか、氷河なんか大嫌い」
菫は怒りをぶつけるかのように、キッと睨んできた。大嫌い発言にショックを受け、俺は壁にもたれかかり、しゃがみ込んだ。
何で俺は菫の発言を信じてやれなかったんだ。菫が怒るのも無理はない。
「前列に闇の影、後列に人形が配置されているね。どうしようかな。このまま突っ込んでも体力を消耗するだけだしね。それが狙いなのかも知れないけど」
菫は思案するように、顎に手を当てた。
「ひょう……違った。ゴミ」
菫はこちらを向いて言った。
違ってねえよ。合ってたよ。なぜ、いい直したんだ。ゴミってどういう意味だ。
「目障りだから、私の前から消えてくれる?」
目障りだと? 俺ってそんなに嫌われてんのか。
「そんなこと言うなよ、菫。俺たちチームじゃねえか」
俺は笑顔で菫に話しかける。
「吐き気を催すような気持ちの悪い笑顔を向けないでくれるかな。ゴミ」
菫はどこか不快そうに顔をしかめた。
心が折れそうだ。ってか菫の中で俺の呼び名はゴミで確定なのか?
「この場所に居たって何の役にも立たないんだから、さっさと階段を上がって消えてくれる? ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ」
そんなにゴミって連発しなくてもいいだろ。可愛い顔してひどい事を言いやがるな。小悪魔め。
「分かったよ。消えればいいんだろ、消えれば」
俺は曲がり角を折れると同時に水刃を繰り出した。水で形作った刃は勢いよく廊下を突き進み、前列の闇の影を数体ほど消滅させた。そして闇の影と人形に攻撃される前に、曲がってすぐの階段を上がった。
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