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スプリングナイフの氷河  作者: 神通百力


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第三話 能力レース①

 一時間目の国語では前にやったテストが返ってきた。テストは鞄に入れるのが面倒だったから、制服のポケットに突っ込んだ。ちなみに全問正解。

 今は三時間目前の休み時間だった。

 次は体育なので俺はジャージを抱えて教室を出た。女子は教室で男子は廊下で着替える。

「男子にも着替えるための教室を用意して欲しいよな」

 俺は言ったが、悲しいことに誰も返事をしてくれなかった。

 横を見ると、男子諸君は教室の引き戸にはりつき、女子の着替えを覗いていた。いつの間にそんな行動を取っていたんだ。これは着替えている場合じゃねえな。

 そう考えて俺もその輪に加わろうとした時、


 突如、空間が歪んだ。


 床が、天井が、凄まじい勢いでグニャリと歪んでいく。

 俺は視線を下げて自分の両手を見た。タイミングを計ったかのように、両手がドロリ、と溶けて床に落下する。その光景に背筋が凍った。

「ひっ!」

 すると突然、叫び声がした。

 俺は顔を上げて声がした方向を見る。狼牙の腕がありえない方向に捻じ曲がっていた。

「うっ!」

 またもや、声がした。視線を向けると、薄弱の両腕が溶けており、消滅していた。

 他の者たちも同じように体のどこかが捻じ曲がっていたり、溶けたりしていた。

「何だ、この地獄絵図は」

 俺は恐怖心に苛まれながら、呟いた。

「ふふふ」

 笑い声がした。俺たちは同時に声のした方を見る。

「着替えを覗くから、こうなるんだよ」

 菫が引き戸から顔を覗かせていた。

「俺は覗いていない」

「廊下にいたから、同罪だよ」

 その理屈はおかしいだろ。覗こうとしてはいたけども。

「もうみんな何が起きたのか分かるよね」

「イン――」

「そう、藍色の(インディゴ)花による(フラワー)幻影ルージュを使ったんだよ」

 菫が俺の言葉を遮り、自ら種明かしをした。今言おうとしてたのに。

 藍色の(インディゴ)花による(フラワー)幻影ルージュは幻覚技だ。

 と、いつの間にか歪みは消えて俺の両手も元通りになっていた。

「ところで着替えなくていいの? みんな」

 菫が俺たちを見回しながら言った。

 その発言を聞いて、俺は男子諸君の方を見た。俺を含めて誰も着替えていなかった。

『早く着替えなきゃ授業に遅れる!』

 俺たちは同時に叫び、慌てて着替え始めた。着替えてる最中にさっきのテストが制服のポケットから落ちたので、慌てて拾いジャージのポケットに突っ込んだ。

 そしてすでに着替え終わっている女子たちの後へ続いた。


 ☆☆


 俺たちは普段授業を受けている校舎とは別の少し離れた校舎の前に並んでいた。この校舎のことを俺たちは離れ校舎と呼んでいる。

 離れ校舎は他の校舎よりコンクリートの壁が厚く頑丈にできている。能力によって校舎が壊れないようにするためだ。この学園の中で一番大きい四階建ての校舎だ。

 通常の校舎と違って、窓が一つも備えられていない。理由としては窓を備えてしまうと、その箇所だけ脆くなってしまうからだ。

 窓がないため校内は陽射しが差し込まず真っ暗だ。昼間でも電気をつけないと使えない。


 ☆☆

 

 さて、体育の授業を受け持つのは学園長だ。

 学園長は離れ校舎の前で仁王立ちし、俺たちを見回すと、

「授業を始めるぞ。競技は能力レースだ」

 能力レースはチーム対抗で行なう競技だ。各生徒が各々の能力を駆使し、先に離れ校舎の屋上にたどり着いたチームの勝利となる。ただし、必ず中を通っていかなくてはならない。外を通って屋上に行くのは反則である。

 チームの一人でも先にゴールできれば、そのチームの勝利だ。敵チームへの攻撃や妨害はオーケーだ。

「お前ら、十五VS十五の二チームに分かれろ」

 学園長の指示が飛ぶ。

「どうやって、決める? お姉ちゃん」

 菫は可愛らしく首を傾げて明日香に聞いた。

「そうね。グーとパーで決めましょう。さあ、二人一組になって」

 明日香の指示通り、二人一組になった。

 俺はグーを出し、相手はパーを出した。

「パーの人は私のところに集合して。グーの人は菫のところに集合ね」

 明日香はさらに指示を飛ばす。その明日香のところへ蘭と薄弱が近寄っていくのが見えた。

 俺は菫がいる場所に向かった。狼牙も同じく菫がいる場所に向かっていた。

「氷河、狼牙。勝利を目指して頑張ろうね。覗きのことは同じチームになったことだし、チャラにしてあげるよ」

 だから、覗いていない。覗こうとしていただけだ。


 ☆☆


 離れ校舎の前にチームごとに並んだ。

 離れ校舎の正面には扉が二つある。二チームが一斉に突入できるようにだ。

「それでは能力レースを始める。勝利したチームには何かおごってやるから頑張るように」

 おごってくれるのか。これは負けられない。

「両チームの士気が上がってなによりだ。それでは開始!」

 俺たちは一斉に突入した。

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