第一話 水刃氷河VS魔道蘭①
俺は窓から差し込む陽射しで目が覚めた。ベッドから降りると、クローゼットを開け、制服に着替えた。
俺が通う青銅学園は能力システムを採用した学校だった。能力システムとは人物のあらゆる情報を読み取り、その人物に相応しい能力を与えるシステムである。
階段を駆け下りてリビングに行くと、兄さんがテーブルに朝食を並べているところだった。
「おはよう、氷河」
兄さんは俺に気付くと、笑顔で挨拶してきた。
「おはよう、兄さん」
俺も笑顔で挨拶を返した。兄さんの名は水刃嵐河。八年前に青銅学園に通っていた元生徒で、黒髪のウルフヘアに爽やかな顔立ちだった。黒髪の短髪で目付きが鋭い俺とは大違いだ。
兄さんは当時、『旋風の嵐河』の通り名を持ち、かなり強かったようだ。能力は『嵐銃』。両手の指先に小さな球状の嵐を形成し、銃弾の如く撃つ能力だ。
俺は手早く朝食を食べ終えて兄さんと駄弁った後、玄関に向かった。
「それじゃ、兄さん行ってくるよ」
「ああ、いってらっしゃい」
俺は玄関を出ると、蟹走りで学校へと向かった。近隣の人に変質者を見るような視線で見られた。オォ~ナゼソンナシセンデ、オレヲミルンデスカ。オレ、ヘンシツシャジャナイデス。マトモデスヨ。……こんな喋り方する時点で、まともではないか。まぁ、いっか。遊んでないで、さっさと行くか。うん、行くっきゃないぜ。さて能力を使って行くか。
「水の放射!」
俺はかかと周辺から水の渦を噴出させた。ブゥーンとハエが飛ぶ時のような音がした。俺の能力は『水刃』。水で形作った無数の刃を操る能力だ。水の放射は『水刃』の技の一つだ。
「風が当たって気持ちいいな」
「ちょっと、待ちなさい。そこの少年。服がずぶ濡れになったじゃない、どうしてくれんのよ!!」
「……いや~、本当気持ちいいな。はは」
「ははっじゃないわよ!! 待ちなさい。こら~!!」
うおっ! 追いかけてきやがった。だが、俺のスピードについてこれるかな。何せ水の放射は加速する技だ。そう簡単には追いつかれまい。
「ククッ、ついてこれるものなら、ついてきな!」
俺はそう息巻いたが、ほんの数秒ほどで追いつかれてしまった。数秒前にイキった自分が恥ずかしかった。
「ふぅ~、ようやく追いついたわ。覚悟しなさい」
「っぐ。馬鹿な追いつかれるだと!」
「そんなに驚くようなこと?」
「周辺に小さな竜巻が発生するほどの速さだぞ。それに、ついてこれるとはお前は何者だ?」
「ん? 私は青銅学園の三年生で図書委員長の死殺輪廻よ」
「なんだって!」
なるほど、そりゃ追いつけるわな。圧倒的な実力を持つ者にしか与えられない役職の委員長ならな。
「ちなみに能力は『死』。死という現象を様々な物に形成する能力よ」
「形成?」
「実際に見せてあげるわ。今から見せるのはさっき君にやった技なんだけど、死の糸という技よ。それじゃ、いくわよ。死の糸!」
突如、輪廻先輩の手から、霧と酷似した物質(死の現象)が現れ、糸状に形成された。
「これを君の腕に巻きつけたのよ。縮め、死の糸と叫べば縮まっていき、追いつけるってわけ」
「ほほぅ、納得。そういや、まだ名前を言ってなかったな。俺の名は水刃氷河だ」
「氷河君か。いい名前ね。これも何かの縁、仲良くしてあげてもいいわよ」
上から目線だと!? 先輩面しやがって! 別にいいけど。
「仲良くしてもらおうか。輪廻先輩」
「えぇ。私は、これで失礼させてもらうわ。じゃあね氷河君」
「じゃあな、輪廻先輩」
俺は輪廻先輩に手を振った後、校門を通った。二学年になって今日で一週間だった。
……ん? あの後姿は、
「おはようございます。飛炎先生」
「ん? 氷河か。おはよう」
飛炎先生のフルネームは岩流飛炎だ。飛炎先生の能力は『火炎爆弾』。火を操りすべてを燃やし尽くす能力であり、クラスの担任で青銅学園最強の男だ。
「それじゃ飛炎先生、これで失礼します」
「おう、あとでな」
飛炎先生と別れ、忍者のように颯爽とかっこよく校舎に入り、教室を目指した。フッ。
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