ハイファンで親の顔より見る盗賊に襲われる馬車に乗った令嬢の話
化け物はいきなり襲って来ない。
必ずワンクッションある。
例えば綺麗な女性に擬態して助けを求める。
「助けて~、助けて~」
馬車が前から来る。鈴の音のような女性の叫び声が聞こえる。
御者はいる。
後ろからマントを被った兵士の騎馬が追っている。
俺は見逃した。
何故ならこんな森の深い所で令嬢が乗る馬車が通る。
トラップか?
騎馬と馬車ならあっという間に追いつく。
御者は矢で一発で殺されて馬車は横転。
ああ、俺は薬草探しのドム、30前のおっさんだ。
この話を冒険者ギルドに報告した。この話題で持ちきりになった。
「やれやれ~、令嬢を助けないなんて」
若者に声をかけられた。
「僕は魔道師ジミー、王宮を追放された魔道師だ」
「へえ、元エリートですか?」
「そうさ。僕がこの国を守っていたのに、無能な上司に追放されたのさ」
「そりゃ」
単なるコミュニケーションの欠如じゃないか?
「ボムさん。案内してよ」
「ああ、分かった。だけどドムな。案内料をもらうぞ」
森に行く。
「そこの旦那様・・・助けて下さいませ」
森の奥から声が聞こえた。女の声だ。
「やれ、やれ、助けるぜ」
「待て!」
俺は小声で説明した。
「あれは蛇獣人だ。ほら、ドレスの下は踝までびっちり。袖は手首が隠れるまでだ。鱗を隠している」
「坊やが病気です。この薬を届けて下さいませ~、お礼をいたします」
「なんだ。人妻かよ」
なんだ。女好きか。ジミーは興味を失ったようだ。
「お待ち下さいませ~」
声を無視して去った。しかし、ジミーはとんでもない奴だ。
薬の届け先は更に深い森の中の洞窟で中には蛇獣人のボスがいる。
休憩場所に泉によった。
「ここが泉だぜ。注意だ。ここにアクアドラゴンがいるぞ」
「へえ、お会いしたいね」
バシャン!
アクアドラゴンが出現した。水の中から出てきた。人型に化けている。髪も瞳もドレスも水色。水の上に立っている。
「ウホー、お姉さん美人だね」
「ウフフフフ」
やばい、ジミーはぞっこんだ。
「貴方の落とした魔法杖はこのオリハルコンの核があるものですか?それともこっちのただの魔石の魔法杖ですか?」
こいつ、精霊になりすましている・・・
ジミーは迷わずに話しかけた。
「オリハ・・・グハ」
話している最中に拳骨を喰らわした。
「お前、そもそも魔法杖を落としていないだろう!これは簡単なワナだ!」
「薬草拾いのくせに!やってやる。風よ・・・」
バシ!
今度は腹を蹴っ飛ばした。
「ウグ、グハ」
「魔道師は詠唱できなければ何てことはない」
「グハ、ゲヘ、息が・・・」
「行くぞ!」
首根っこを捕まえて案内した。しかし、こいつ自信過剰だ。人の話を聞かないな。だから追放になったのか?いや、詮索はやめよう。誰にでも欠点はある。
「畜生、薬草拾いのくせに」
「ついてこい。俺がいなければ迷うぞ」
馬車を見かけた森道に到着した。
「いいか、見るだけだぞ」
「分かったよ」
すると、馬車がやってきた。この前みたのと同じだ。
馬車を騎馬が追いかけている。
草むらに隠れて見る。
「どうだ。魔道師から見て、あの馬車怪しくないか?・・・おい!」
こいつ、コミュニケーションの欠如でチームを追い出されたのだよな。
「風よ!邪な奴らを吹き飛ばせ!」
すると騎馬の黒ずくめのマントを被っている奴らは吹き飛んだように見えた。
いや、カゲだ。木々の枝に飛びついている。
俺は地面に伏して伺う。そうすると夜目でも見えるのだ。
「お嬢様、ご無事ですか?元王宮魔道師のジミーです!」
元はいらんだろう。それともこれは人か?
すると馬車のドアが開き令嬢が降りて来た。
「有難うございます。勇者様・・・お礼をしたいです。馬車にお乗り下さい」
ジミーに寄る令嬢からドンドン!と足音がする。
「ヒィ、オーク顔だ!」
ジミーは失礼なことを言って去った。
首回りに肉がつき。顔はガマガエルのようにイボだらけ。かなり太った令嬢だ。
「グスン、グスン、まただわ。この姿を見るとどの殿方でも去るわ」
「「「お嬢様」」」
お嬢様は膝をついた。何か理由があるのか?だから、俺は相棒の謝罪がてら令嬢の前に出た。
「申訳ありません。コミュニケーションの欠如で相手の心を考えることが出来ない奴なのですよ」
「まあ、貴方は?」
「薬草探しのドムという者です」
「まあ、貴方はこの姿を見てどうも思わないの?」
「さあ、健康のためにやせられた方が良いと思いますが、別にという感じです。私だって、さえない見栄えです」
「そう・・・」
「さあ、お立ち下さい」
手を差し出した。
「私、とっても重いですよ」
「ハハ、頑張ります」
引っ張った。が、重くない。
「有難うございます」
ピカッ!と令嬢は光に包まれた。
「何だ!」
令嬢が、令嬢になっている。いや、首回りの肉がなくなり・・・美人になっている。
「フフフフ、お礼をしたいですわ。馬車にお乗り下さいませ。事情を説明しますわ」
驚いた。この令嬢は近くの領主の娘さんで、王国一番の美人と評判だったそうだ。
それを魔女に妬まれて呪いをかけられた。
「はい、呪いには必ず解除の方法があります。それは事情を知らない殿方に親切にされることだったのです」
「ああ、だからあんな芝居をしたのですね」
「私も醜くなってから、本物の殿方の心がわかるようになりましたわ」
「あ、何を」
両の手の平を胸に当てられ寄り添われた。
良い匂いだ。30前だが10代みたいにアタフタした。
「私は平民ですよ」
「かまわん。娘を助けてくれたのだ」
「そうよ。もう、スターシャの婚約者にね・・・分かるわね」
「妹を泣かしたら承知しないぞ」
「ええー」
ご令嬢の家族にも歓迎された。
俺はとりあえず森の伯爵屋敷に住み。
あいかわらず薬草探しをしている。
「ドム様、これは採っても大丈夫ですか?」
「まだだな。もう少し成長してから」
「分かりましたわ」
中々良い生活だ。
冒険者ギルドに行くとギルマスに呼ばれた。
「おい、ジミーが帰ってこない。何か知らないか?」
「あっ」
あれから一週間、餓死寸前のジミーは発見された。
「はあ、はあ、早く助けろよ!」
「面目ない、案内料はいらないよ」
「当たり前だ。お、美しいお嬢さん」
ジミーはスターシャに釘付けだ。
だが知らない。一度は『オーク顔』と拒絶した女性だ。
「ねえ。ねえ。僕、元王宮魔道師だったんだ。お嬢さん。カフェに行きませんか?」
するとスターシャはニッコリ笑って。
「まあ、元だったらいらない経歴ではなくて?」
と拒絶した。
これは、俺と同じ感性だな。嬉しくなった。
「では、ドム様、行きましょう。エスコトートして下さいませ」
「ああ、行こう」
唖然とするジミーを尻目に屋敷に戻る。
これからどうなるか分からないが、俺はこの娘が好きになった。
最後までお読み頂き有難うございました。




