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第4話 能力の開花

「……ごめんなさい……お母様……っ」


深夜、静まり返った北棟の小部屋。凍てつくような静寂を切り裂いたのは、シャルロッテの途切れ途切れの悲鳴だった。


窓から差し込む青白い月光が、彼女の痛々しい姿を冷酷に照らし出している。額にはべっとりと脂汗が浮かび、小さな体は目に見えない暴力から逃れるように、シーツの端を握りしめて丸まっていた。


召喚から数日が経過した。私たちは、自分たちに何ができるのかを必死に模索し続けていた。


私が念じてみたり、シャルロッテが枯れかけた精霊力を振り絞って私に流してみたり。けれど、そのたびに虚しい沈黙が部屋を支配するだけだった。


私の体は相変わらず、触れれば弾むだけの頼りない黒い毛玉。火を吹くことも、水を操ることも、傷を癒やすことさえ叶わない。


昼間、彼女が受ける仕打ちを思い出すだけで、私の核が怒りでひび割れそうになる。


異母姉のエルザたちは、彼女を「無能の煤玉を連れたゴミ」と呼び、見せしめのように熱い茶を浴びせ、執拗に言葉の刃で追い詰める。夕暮れ時、新しい火傷を増やして帰ってくる彼女の背中を見ることしかできない。


そのたびに、私は自分の存在意義を問い、無力さに血を吐くような思いで歯噛みするしかなかった。


『……シャルロッテ。大丈夫よ、私はここにいるわ。隣にいるから』


私はフワフワと浮き上がり、彼女の細い鎖骨のあたりに寄り添った。


だが、深い悪夢の泥沼に足を取られた彼女には、私の届かない声など、ただの風の音に過ぎないらしい。

腕に巻かれた汚れた包帯。その下の皮膚が脈打つたびに、彼女の眉根が苦痛に歪む。


それは肉体の痛みだけではない。継母たちの罵声、冷笑、そして「自分は誰にも愛されない」という絶望が、呪いのように彼女の心を縛っているのだ。


(……なんで、何もできないのよ。この子のために、何一つ)


前世の記憶が、濁流のように脳裏をかすめる。


私の母も、機嫌一つで私を暗い部屋に閉じ込める人だった。怒鳴り声が廊下に響く夜は、ただ布団の中で耳を塞ぐようにして夜明けを待った。


あの、酸素さえ奪われるような孤独。なぜ、生まれ変わってまで、この小さな子に同じ地獄を味わせなければならないのか。


せめて、今この瞬間だけでも。この子の心から、凍えるような恐怖と痛みを取り除いてあげたい。


誰にも邪魔されない、深海のように静かな「安らぎ」を。


『……お願い。せめて夜くらい、すべてを忘らかに眠らせてあげて』


私は祈るように目を閉じ、彼女の弱々しい心音に合わせて、自身の魔力を波立たせた。


「破壊しろ」でも「敵を倒せ」でもない。ただ「包み込み、守り、休ませたい」という、純粋で、深く、静かなる願い。


その瞬間――ドクン、と私の核がかつてないほど熱く脈動した。


部屋の隅、月光の届かない場所に溜まっていた「影」が、意思を持った生き物のように蠢き始め、何かがシャルロッテとつながった気がした。黒い霧のような粒子が私の体から溢れ出し、それはシャルロッテを拒絶することなく、上質な絹の布のように優しく彼女を包み込んでいった。


「……あ……っ」


シャルロッテの荒かった呼吸が、みるみるうちに穏やかなリズムへと変わっていく。険しく寄せられていた眉間の皺がスッと消え、こわばっていた指先から力が抜けた。


闇は彼女の心に巣食う悪夢を飲み込み、消化し、代わりに「何者にも侵されない絶対的な静寂」を与えていく。それは底なしの安眠へと誘う、慈愛に満ちた闇だった。


(これが……私の、本当の力?)


自身の輪郭が拡張していく感覚があった。部屋の隅々まで、魔力の糸が血管を通る血のように鮮明に感じ取れる。


私はふと、ベッドの脇の床に落ちている、月光によって作られた「ベッドの影」に意識を向けてみた。


(あそこに……行ける。あそこは「私」の領域だ)


吸い込まれるような感覚に身を任せる。


次の瞬間、私の実体はベッドの上から霧のように霧散し、冷たくて心地よい「影の中」へと滑り込んだ。

そこは音も光もないが、外界のあらゆる悪意から切り離された、誰の手も届かない私だけの完璧な聖域だった。


360度すべてが私の感覚器であり、外の世界が薄皮一枚隔てた向こう側に透けて見える。


『……できた。できたわ、シャルロッテ。これで、もう逃げ隠れしなくていい』


影の中から、音もなく顔を出す。


ベッドの上では、シャルロッテがここ数年で一番深いであろう、幸福な眠りについていた。寝顔に残る幼さが、ようやく彼女の年齢相応のものに見える。


確かな手応えが、私の小さな体の中に満ちていた。一度感覚を掴めば、次はもっと広く、もっと鋭く。


影を通れば、この部屋を閉ざす頑丈な鍵も、北棟を囲む高い壁も、もはや何の意味もなさない。


あいつらが贅沢な食事に舌鼓を打ち、無防備に寝静まった深夜に厨房へ忍び込み、彼女のための滋養ある食料を確保することも自由自在だ。


『お待たせ。反撃のピースは、ようやく私の手の中に揃ったわよ』


私は眠る彼女の柔らかい頬に、モフモフの体でそっと触れた。「ハズレ精霊」「無能の煤玉」と嘲笑った連中に、闇の本当の恐ろしさを骨の髄まで教えてやる。


私たちはもう、ただ虐げられるのを待つだけの哀れな供物じゃない。

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