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第14話 新たなる生活のはじまり

精霊品評会での告発から数日後。王都の法廷では、ローゼンバーグ侯爵家に対する峻烈な審判が下されようとしていた。


私とシャルロッテは、国王から特別に許された傍聴席で、その最後を見届けていた。


「被告、ヴァネッサ。前侯爵夫人の毒殺、公金の横領、および正当な継承者に対する虐待――すべての罪状を認めるか」


裁判官の冷徹な問いに、かつての傲慢な面影を失い、ボロ布のような囚人服を纏った義母は、ただガタガタと震えることしかできなかった。


今回の調査で、さらなる衝撃の事実が判明した。義姉エルザは、侯爵の血を引く嫡子ですらなかったのだ。ヴァネッサが侯爵をたぶらかし、連れ子であるエルザを「侯爵の娘」として偽って入籍させていた。


正当な後継者を虐げ、その地位を脅かしたことは、貴族社会の秩序を揺るがす大罪。王家が下した裁定は、容赦のないものだった。


「現当主より爵位を剥奪し、全財産を没収とする。主犯たるヴァネッサおよび、黙認し不実を働いた前侯爵は投獄。刑期を終えた後は平民以下に身分を落とし、最果ての開拓地での終身刑を命ずる。……そして、本件の被害者であり、唯一正当な血統たる次女シャルロッテを、新たなローゼンバーグ侯爵当主として指名する」


エルザもまた、家門の不正を知りながら加担していたとして、その身分を失った。かつて「出来損ない」と見下していた者たち以下の過酷な労働環境。それが、彼女たちが余生を過ごす場所となった。


「……終わったね、クレール」


法廷を出たシャルロッテが、眩しそうに王都の空を見上げた。その表情には復讐の喜びよりも、憑き物が落ちたような静かな解放感が漂っていた。


そんな彼女の前に、王太子エドワード殿下が歩み寄ってきた。


「シャルロッテ・ローゼンバーグ。いや、新たなローゼンバーグ侯爵よ。陛下の命により、貴殿を正当な後継者として認め、侯爵家の再興を託す」


王太子からの言葉に、シャルロッテは改めて深く頭を下げた。


「私が……当主に。殿下、私はまだ幼く、領地の経営など……」


「案ずるな。陛下も君の境遇には深く心を痛めておられる。助けが必要なのは百も承知だ。そこで、王家より最も信頼の置ける補佐官を派遣することにした」


殿下が手招きすると、背後から一人の青年が進み出た。眼鏡の奥に理知的な光を宿した、いかにも仕事人間といった風貌の男だ。


「初めまして、ローゼンバーグ侯爵様。本日よりお側で政務の補佐を務めます、ヴィンスと申します。……それから、そちらにおわすのは契約精霊のクレール様ですね。殿下より、非常に……忌憚のない、率直なご意見を述べられる方だと伺っております。私は一向に構いませんので、どうぞお気になさらず。職務に邁進させていただきます」


淡々と、しかし丁寧な物腰で告げるその態度に、私は思わず眉を寄せた。


『ちょっと、何よその「慣れてます」みたいな態度は。私がどれだけ厳しいか分かってて言ってるのかしら?』


「ええ、クレール様。批判がむしろ業務改善に役立つ場合もございますので、歓迎いたします」


『……チッ、可愛げのない男ね。ねえシャル、私が領地経営なんて面倒なこと、本気でやると思ってるの? 私たちは自由になったんだから、どっか遠くへ遊びに行きましょうよ』


私が拗ねたように言うと、シャルロッテは私の手を優しく握った。


「クレール。……私ね、決めたんだ。私のように誰にも助けてもらえない子供を、私の領地からは一人も出したくない。みんなが笑って暮らせる場所にしたいの」


シャルの瞳に、微かな涙が浮かんでいた。三年前の冬、誰もいない部屋で凍えていた彼女。その痛みを、彼女は優しさに変えようとしていた。


『……全く。あんな目に遭わされて、まだ他人の心配なんて』


私は溜息を吐き、ヴィンスという男を上から下まで眺める。


『いいわ。仕方ないわね。シャルの夢だもの。私の「闇」で、この領地を最高に平和で、最高に豊かな場所に変えてやろうじゃない』


「賢明なご判断です、クレール様。では侯爵様、さっそく溜まっている三日分の書類から片付けましょうか。クレール様には、その影を自在に操る力で書類の整理と仕分けをお手伝いいただきたく」


『今すぐ!? っていうか、なんで私まで事務作業の手伝いなのよ! 私は高位の精霊であって、便利屋じゃないわ! ……やっぱりこの男、大嫌いだわ!』


私が心の中で毒づいていると、隣でシャルロッテがふふっと楽しそうに声を上げて笑った。


「クレール、一緒に片付けちゃおう? これを早く終わらせて、私たちの新しい家へ帰る準備をしなきゃ」


シャルロッテにこれほど明るく、力強く言われてしまえば、断れるはずもなかった。


『……はぁ。わかったわよ。シャルの頼みなら仕方ないわね』


私たちの新たな闘い――今度は壊すためではなく、創るための日々が、こうして幕を開けたのだった。

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