表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

第13話 断罪

『さて、侯爵夫人?……心配した、ですって?』


会場を埋め尽くす冷ややかな失笑を貫くように、私の声が響いた。


その一言だけで、義母ヴァネッサの引きつった笑みが完全に凍りつく。シャルロッテの隣に実体を持って佇む私の冷徹な視線が彼女を捉えた瞬間、彼女はまるで(くさび)で縫い止められたかのように身をすくめた。


『よくもまあ、そんな嘘が吐けたものね。ローゼンバーグ侯爵夫人』


私は静かに一歩、前へ出る。私の足元から広がる影が、ステージを侵食するようにゆっくりと、けれど確実に、貴賓席で震える侯爵夫妻の足元へと伸びていく。


そこには、この国の頂点――国王が、眉間に深い皺を刻んで鎮座していた。その隣で実務を司る王太子エドワード殿下が、国王の沈黙を代弁するように鋭い声を上げる。


「精霊よ、その言葉の真意を問おう。ローゼンバーグ侯爵家が提出した『辞退届』には、次女は重病で立ち上がることも叶わぬと記されていたが?」


『王太子殿下、そして国王陛下。……そのような事実はございません』


私は指先をスッと振った。


すると、夫妻の足元まで伸びていた影がドロリと盛り上がり、実体を持って弾けた。影の中から吐き出されたのは、数束の分厚い帳簿と、不気味な青い光を放つ宝石の目録、そこで一通の古びた書簡。


「な、何を……! 控えなさい、無礼な精霊ね! シャルロッテ、精霊の躾もできていないの!?」


義母がヒステリックに叫ぶが、シャルロッテは無言のまま、冷徹な瞳で彼女を見据え続けている。


『躾が必要なのは、どちらかしら。……まずはこちら、侯爵家が管理する領地の運営報告書と、実際の支出を記録した裏帳簿です』


私は影の手を借りて、書類を宙に浮かべた。


『ヴァネッサ様。あなたが過去五年にわたり、領地の運営費を私物化し、自身の宝石に変えていた証拠の裏帳簿です。この宝石目録に並ぶ品々は、すべて領民たちが飢えに苦しむ中で買い漁られたもの』


「嘘よ! そんなもの、ただの捏造だわ!」


義母が叫ぶが、私はさらに続ける。


『捏造かどうかは、王家の監査官が調べればすぐに分かります。そして……殿下、もっとも重大なのはこの書簡です』


私は一通の封筒を、国王と殿下のもとへと飛ばした。


『それは、シャルロッテの産みの母君……前侯爵夫人の死に関する「真実」です』


その瞬間、父である侯爵の顔から完全に血の気が引いた。


『書簡には、ヴァネッサ様が闇市場で入手した毒薬の明細と、それを食事に混ぜさせた協力者への指示が、彼女自身の筆跡で記されています。そして……お父様。あなたは、その事実を知りながら、後妻の権勢とエルザ様の「火の精霊術」への期待から、すべてを闇に葬った』


会場に、先ほどまでとは質の違う、地鳴りのような怒号と戦慄が走った。


「横領……毒殺……」

「これほどの才能を殺そうとし、殺人者を庇い立てしていたというのか!」


「お、おのれ……! 精霊風情が何を……! 衛兵! この精霊と、この出来損ないを捕らえよ!」


父が激昂して立ち上がろうとしたが、その時。それまで沈黙を守っていた国王が、重厚な玉座の肘掛けを静かに叩いた。


「……黙れ、ローゼンバーグ侯爵」


その一言で、会場のすべての音が消えた。国王の瞳には、氷のような怒りが宿っている。


「これほどの証拠を目の当たりにしながら、なお醜態を晒すか。……エドワード、騎士団を動かせ。この者たちを拘束し、徹底的に洗え」


「御意、父上」


殿下の合図とともに、銀色の甲冑に身を包んだ近衛騎士たちが、逃げ場を失った侯爵夫妻とエルザを包囲した。


エルザは腰を抜かしたまま「嘘よ、嘘よ」とうわ言のように繰り返し、義母は泡を吹いて卒倒し、父は騎士たちに取り押さえられ、無様に床へと押し付けられた。


崩れゆく家族の姿。かつて私たちを塵のように扱った者たちが、今、公衆の面前で無様に地に伏し、醜態を晒している。


シャルロッテは、その光景をただの一度も振り返らなかった。


彼女は、静かに私の隣に並ぶ。夜の帷が下りる中、彼女は国王に向けて、最高に優雅な最後の一礼をした。


「これにて、全ての清算を終えさせていただきますわ。……さようなら。皆様、どうかあの離れの冬よりも、ずっと冷たい場所で、いつまでも健やかに」


その慇懃な言葉に含まれた、冷徹なまでの訣別の宣告。


三年にわたる離れでの日々。無視され、踏みにじられ、消されるはずだった少女。私たちの長い冬は、いま、この燦然たる舞台の上で、最高に華やかな幕切れを迎えたのだ。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ