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第1話 人間辞めたい!からはじまる精霊ライフ

人間が主役じゃない物語が書きたいと思い、執筆スタートしました!毎日20時半ごろ投稿しますので、よろしくお願いします!

「……いた。この、親不孝者が!」


深夜のオフィス街。ブラック企業の重い自動ドアを出た直後、鼓膜を突き刺すような忌々しい声が響いた。

反射的に体が震える。そこに立っていたのは、数年前に夜逃げ同然で縁を切ったはずの母だった。


「お母さん……? なんで、ここに」

「やっと見つけたわよ! あんた、こんなところで呑気に働いてたのね。親戚の人があんたを見かけたって言うから、何日もここで張り込んでたのよ!」


過干渉で支配的な母。家庭に無関心な父。妹を見下して搾取する兄。

地獄から逃げ出した先は、心を削って働くだけのブラック企業。

三十歳。独身。気づけば私の心には、もう何も残っていなかった。


「あんたが勝手にいなくなってから、うちは火の車なんだから! お兄ちゃんの借金も膨らんで大変なのよ。さあ、今すぐ貯金を全部出しなさい。あんたがなんとかするのが当然でしょ!」


数年ぶりの再会で開口一番、金の話。

私を人間としてではなく、ただの便利な財布としか思っていない言葉。


「……嫌。もう、放っておいて」

「なんですって!? 親に向かってその態度は――」


ヒステリックな罵声が降り注ぐ。

耳を塞ぎ、私はパニック状態でその場から駆け出した。

後ろから聞こえる「逃げるな!」という叫びが、何よりも恐ろしかった。

振り返り、母の姿を確認しようとした、その時。


キィィィィィィッ!! という耳をつんざく急ブレーキの音。

強い衝撃。

宙を舞う視界の中で、最後に思ったのは「痛み」よりも――。


(あぁ……これで、やっと解放される……)


もう二度と、人間となんか関わりたくない。

深い安堵と共に、私の意識は真っ暗な闇に沈んだ。


***


「……というわけで、貴女は亡くなりました。お気の毒に」


目が覚めると、そこは真っ白な空間だった。

目の前には、綿菓子のようにふわっふわなドレスを纏った、見るからに「ゆるふわ系」の女神様が浮いている。


「人間として、随分とハードモードな人生だったようですね。同情を禁じ得ないので、次は恵まれた転生先を選ばせてあげましょう。王族の姫、伝説の聖女、最強の勇者の娘……どれがいいですか?」


女神様はにこにこと提案してくるが、私は間髪入れずに首を振った。


「いえ、人間以外でお願いします」

「えっ? 王族ですよ? 一生遊んで暮らせますよ?」

「人間関係とか、しがらみとか、期待とか、そういうのはもうお腹いっぱいです。吐き気がするほどこりごりなんです。できれば、ただ漂っているだけの雲とか石とか……とにかく、人間じゃない何かにしてください」


私の必死な形相に、女神様は少し困ったように頬をかいた。


「うーん……石は流石に退屈すぎますし。では、『精霊』なんてどうでしょう? 労働も納税もありません。長生きですし、誰にも干渉されず、のんびり空を眺めて暮らせますよ」

「それです。それがいいです」


私は即答した。人間関係のない、自由な生活。それこそが私の求めていた天国だ。


「わかりました。では、最高の精霊ライフを送りなさいな」


女神様が優しく指を鳴らす。その瞬間、私の魂は温かな光に包まれ、別世界へと運ばれた。


***


次に意識が戻ったとき、私は「楽園」にいた。


空は優しいパステルカラー。綿菓子のようなピンク色の雲が浮かび、虹色の風が吹き抜けている。


私は、大樹ほどもある巨大でカラフルなキノコの傘の上で、ぽよんと跳ねるようにして生まれた。


「…………天国だ」


手足はない。ぼんやりとした黒い靄のような体。けれど、驚くほど体が軽い。


納期も、罵倒も、母の足音も、ここには一切届かない。キノコの傘は柔らかく、漂っているだけで溶けてしまいそうなほど心地よかった。


『おおおっ! 生まれた! 生まれたぞ!』

『闇だ! 希少な闇属性だぞ!』

『しかもこの濃厚な精霊力……間違いなく上級精霊だ!』


周りを飛んでいる光の玉(たぶん先輩精霊たち)が騒がしいけれど、今の私にはそれすら心地よいBGMに聞こえた。


よかった。ついに手に入れたんだ。誰にも邪魔されない、最高のニート――じゃなくて、精霊ライフを。


私は幸せを噛み締め、最高のリラックスモードで目を閉じかけた。


その直後。


足元に、禍々しい幾何学模様の光が浮かび上がった。


「……え?」


『ああっ! 召喚陣だ!』

『生まれたばかりの上級精霊様が、人間に呼ばれるなんて!』

『なんて強運な人間なんだ! いってらっしゃーい!』


先輩たちの明るい声が遠ざかる。私の意思を無視して、掃除機に吸われる埃のように、体がぐいぐいと光の中に引きずり込まれていく。


「しょ…召喚!? 聞いてない!!!! ちょ、ちょっと待って! 人間は嫌だって言ったのに――!!」


私の魂の叫びは空虚に響き、視界は真っ赤な召喚の光に塗りつぶされた。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


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