多分、最初のときめきーside誠治朗
ホットケーキをいただいて、浅緋のお母さんと打ち解ける。
俺の分はお母さんが焼いてくれたけど、浅緋はそれを見て作るの代わるよ、と言ってエプロンを着けた。
すごい、めちゃくちゃ自然に代わるじゃん。エプロン…似合うじゃん。
いいよーというかと思いきや、んじゃ、お願いと素直に代わるお母さん。
本当にいつもやっているんだな、とそれだけでわかった。
冷めちゃうから食べて、と勧めてもらって、浅緋を見る。
顎でくいっと"食えよ"と合図ももらったので、ありがたくいただいた。
美味しいので、ぱくぱくと食べ進めると、
「浅緋が言ってた通り本当に美味しそうに食べるのね」とにこにこと言われた。
どうやら、俺や木下先生の話を家でしているらしい。
思わず勢いよく浅緋を見ると、照れ隠しでおばさんの分のホットケーキを渡す。
どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい。
よかったら晩御飯もどう?なんて誘ってもらって、さらにお言葉に甘えることにした。
弁当の前に、八束家の料理を食べられる。しかも今夜は浅緋の作るカレーらしい。
いつも料理なんか全然しないのに、ただ待っているだけなのも手持ち無沙汰なので、手伝う!と手を洗って隣に立った。
ちょっとため息をつきながら、人参の皮を剥いてくれと渡される。
「あ、これ着けとけ。濡れるから」
と、いつも使ってるであろう別のエプロンを貸してくれた。
デニムのシンプルなデザイン。…どうしよう、嬉しい。
張り切って返事をしたものの、人参の皮なんか小学校の家庭科の授業くらいでしかやったことない。
ちょっとガタガタっとなっている人参を見て、浅緋に怒られた。
「お前料理出来ないなら先に言えよ!」
「いや、八束と一緒なら出来るかなぁって思ったんだよね」
俺も、皮むきくらいなら出来ると思ったよ、ほんとに。
お母さんが俺をかばって最初は浅緋も苦手だったでしょ、と言うとピーラー使って人参ガタガタは浅緋の予想外だったようだ。
それならやって見せてくれと頼むと、包丁でヘタを切って、その端にピーラーを引っ掛けて引っ張る。
「そんなに力入れなくても端っこに引っ掛けてそのまま引っ張る」
なんだ、それなら出来そう。というと疑いながら手、ケガすんなよとか言ってくれる。
どうしよう、今日色んな一面見られてすごい嬉しい。
照れる浅緋と茶化すお母さん。手際よく進める浅緋と、手際の悪い俺。
なんだかんだ文句を言う割に、俺がやった方が早い、とかそんなことは言わない。
もたもたしてると、やり方を教えてくれる。
玉ねぎを切って涙目になる俺を見て、ふいに笑う浅緋。
…俺に笑ってくれたの初めてかも。
そんな俺たちを見て、なんだか浅緋のお母さんは嬉しそうにしていた。
そんな風に、きっといつもより時間のかかったであろうカレーが出来上がった。
浅緋はカレーをコトコト煮込んでいるうちに、パパっとサラダとスープも作っていた。
出来上がった頃に、浅緋のお父さんが帰ってきた。
挨拶をすると、
「かっこいい名前だねぇ」と褒めてくれた。
じいちゃんがつけてくれた自分でも好きな名前だ。素直に嬉しい。
お父さんが着替えてくるのを待つ間に、二人でカレーを盛り付ける。
小盛1つ。普通盛1つ。大盛2つ。
「これくらい、食べるだろ?」
「うん!」
食卓に運ぶと、普通盛はどうやらお母さんの分らしい。
お父さんの隣に浅緋が座るというので、お父さんと、その斜向かいに大盛の皿を置いた。
最後に浅緋が、小盛のカレーを持って空いている席に置いた。
「あれ、浅緋、4つ…?」
お母さんが浅緋に尋ねた。
あれ、まだ家族がいるのかな…?
「あ、たまには…俺も一緒に…食べようかと思って…。尾浜、お茶入れるから運んでくれ」
ふいに声をかけられて、返答する。
どうやら、家でも家族とは食べていないんだということが分かった。
ちらっとお母さんをみると、少し俯いていた。
お茶を運んで、席に座る。
ちょうどお父さんが着替えて戻ってきた。
お父さんの隣の席に座る浅緋を見て、お父さんが立ち止まる。
冷めちゃうから、と催促する浅緋。俺の帰りが遅くなってしまうことも、考えてくれているらしい。
気まずそうにする浅緋。目配せするご両親。
あれ…俺もしかして、ものすごく貴重な機会に立ち会わせてもらってるのかな…?
「いただきまーす」
目の前に座る浅緋を、あまり視界に入れないように、カレーを食べる。
多分、俺まで気まずそうにするともういたたまれない。し、手伝って作ったカレーは、めちゃくちゃ美味い。
少し遅れて、一口、浅緋がカレーを口にした。
緊張した空気を感じる。
「うまぁ。八束、めっちゃうまい!」
浅緋に声をかけると、少し素っ気なく
「そりゃ、よかった」とか言う。
さっき笑ってくれたみたいに、「だろ?」とか期待したのに。
浅緋も、きっと緊張してるんだな。
「…八束、おいし?」
「ん、んまい。我ながら」
そう言って、また一口。
ゆっくり、もう一口。
浅緋が食べるのを見て、お父さんもお母さんも、肩の力が抜けたようだった。
ぽろぽろと、涙を流しながら、笑って浅緋のカレーを褒める二人。
ものすごく気まずそうに、俺に話題をふってくる浅緋。
あ、俺すごくいい日にここに来られて良かった、と思った。
結局、カレーを3杯。おじさんもわりとおかわりしてた。
さすがに腹いっぱいになって、少しリビングで休ませてもらう。
「ね、尾浜くんトランプしない?」
少ししてから、お父さんが誘ってくれたので、二人でババ抜きを始めた。
ちらりと横目で浅緋を見ると、さすが、置いといてって言われたのにお母さんと一緒に皿洗いをしている。
「あ、尾浜くん余所見してると負けちゃうんじゃない?」
「え、いやいや負けないですよ!」
トランプなんて、いつも弟と妹と3人で、わりと手加減してやるくらいだ。たまにねーちゃんが加わると、手加減無しでやるもんだから、妹がへそを曲げる。
「え、お父さん強い…」
「まあね」
「あの、お父さん、もう一回」
「いいよ」
思いのほかお父さんが強くて、それが悔しいからムキになって何度ももう一回とやらせてもらった。
夢中になって、すっかり遅くなってしまった。
「尾浜、そろそろ行くぞ」
と浅緋に声をかけられるまで、全然時間なんて気にしていなかった。
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お礼を言って、八束家を後にする。
二人とも、また遊びにおいで、と見送ってくれた。
帰り道、浅緋と二人、ぽつぽつ話をしながら歩く。
にこにこしたお母さんと、穏やかなお父さん。
ポロっと、浅緋はお父さんに似たのかな、なんて言ってみたら
「んー、どっちだろな…血繋がってないから、二人と」
なんて思ってもみなかった言葉が返ってきた。
驚いたけど、それ以上浅緋はそのことには触れなかったし、俺も別に深く詮索するようなことは言わなかった。
せっかくこうやって仲良くなれたんだし、浅緋は浅緋だし。
遅くまで付き合わせて悪かったな、ということと、緊張した、という本音を零してくれた。
「ありがとな…尾浜」
と、ちょっと弱々しく笑う浅緋に、どこまでこいつは奥が深いんだ、と一瞬息を吞んだほど。
その日はものすごく距離が縮まって、浅緋の新たな一面を沢山見て。
帰りが遅いとグチグチ言ううちの父のことなんて、何も気にならずに夜を明かした。
ふいに浅緋の笑顔を思い出しては、唸る俺に、
同じ部屋の陽光が
「兄ちゃん、ちょっとうるさい」
と声をかけてきたほど、その夜は眠れなかった。
別のサイトで二次創作で書いていたものをリメイクして書いております。
そのため、もしかしたら修正なっておらず、名前など間違うことがあるかもしれません。
注意しておりますが、もしなんだこれ、があったらそういう事情です…。




