少しずつーside誠治朗
浅緋と初めて話してから、俺はさらに浅緋のことが気になって、もっと仲良くなりたいと思った。
だけど、きっとあいつはそうじゃない。
素っ気ない態度。先生とは笑って話すのに、俺にはにこりともしない。
でも、悪い奴ではないと思った。
だって本当に嫌だったら、あのまま俺を無視することだってできたはずだ。
一緒に食べたくない理由だとか、10分待てとか、嫌そうな顔をするけどちゃんと話してくれる。
少しずつなら、近づけるんじゃないか、と思った。
よく知りもしないやつが毎日押しかけてきたら拒絶するだろう。
そう思って、最初のうちは週に2回くらい、浅緋が食べ終わった頃を見計らって生物準備室へ向かった。
また来たのか、という雰囲気は感じた。顔に出さないようにしてるけど、全身から迷惑そうなのが伝わってくる。
本当にくだらないことから、少しずつ。
「聞いてよ、今日数学の抜き打ちだったんだよ」
「そうか」
「そっちの先生誰だっけ、担当」
共通の話題も、少しずつ。
「今日はなんと数量限定のカツパン手に入ったんだよ!!」
「よかったな」
嬉しかったことを少しずつ。
口実に必ず購買でパンを買って。
「お前ほんとによく食うよな…」
何度目か、ほんの少し距離が縮まったかな、と思ったくらいの頃。
浅緋にそう言われた。
「それ、よく言われる。俺は普通に食ってるだけなんだけどな」
そう返した。実際にそうなのだ。浅緋を見ると、何か思うところがあったのか
「そう言われるの嫌なら言わないけど…」
少し視線を落とした。きっと、自分がそういう経験をしているんだろう。
こちらを気遣う様子に思わず嬉しくなる。
「や、全然!むしろ嬉しい!」
返答してしまったと思った。
あ、ちょっとこれは浅緋的にはいい答えじゃなかったんだろうな、という複雑な顔をされたから。
でも、きっと今が距離を縮めるチャンスだよな。
何か話題は…そうだ。
「そういえばさ、八束料理はするんだよな?」
つい先日、木下先生と三人の時に浅緋が話していたのを思い出した。
「あぁ、趣味程度だけど…」
木下先生の弁当は、奥さんが作ってくれているらしい。ちらっと見ただけでも美味そうだった。
その奥さんに、何かレシピを教えたり、たまにおすすめされたりしているみたいな…
そして、浅緋はほとんど自分で弁当を作っているとも言っていた。
「今度俺にも弁当作ってくれない?」
「は…?」
すごい、こんなに眉間にしわが寄ってるの久しぶりにみた。
「あ、ちゃんと材料費払うし!」
「なんで」
「八束と同じの食べたら、一緒に食べた気持ちになるじゃん?」
我ながら、なんてわけのわからない理由だと思った。
「…どういう理論なの、それ」
俺も、よくわかってないから突っ込まないでくれ。
「いつもどんなの食ってるか気になるし、純粋に八束の作ったもの食べたい!だめ…かな」
勢いに任せて、そう言って顔色を伺う。
…あれ、ちょっと考えてる。
「別に大したもの作ってないし。母親が作る日もあるし」
お、もしかしたらこれはもうひと押しでいけるんじゃないか?
「いいんだよ、八束と同じの食いたいの」
最後のひと押し。
あ、考えてる。…これは、いけるか?
「…変なやつ。…来週、いつ来る?」
きた、これはきた
「え、いいの!?」
金曜日に弁当箱を持って来いと言う。やった、やっとまた一歩進んだ。
思わず「八束、愛してるー!!」なんて抱き着けば物凄い顔ではがされた。
あの顔、おもしろかったな。
ちょうどその時、木下先生が笑いながら入ってきた。
少しふざけながらも、先生に弁当を作ってもらうことを伝える。
よかったな、と俺にいう反面、無理をしないよう浅緋にいうあたり、やはり木下先生はよく見てる。
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約束の金曜日、空の弁当箱を渡すと、ちょっと引かれた。
俺の弁当箱がでかいんじゃなくて、浅緋のが小さいだけなんだけど…。
材料費は元から払うつもりでいたけど、いつもより多い量作るならもしかして買い出しとか行くかな。
「ね、材料買いに行くのついて行っていい?」
ふいに聞くと伝家の宝刀、「は?」と返された。
「明日一緒に買いに行こうぜ!!」
買い出し一緒に行ったら、もう少し仲良くなれるかもしれない。勢いよく誘うとうるさいからと断られる。
静かにするから、と交渉する。
どうやら買い出しはスーパーだけではないらしい。
俺は八百屋で買い物なんか、したことない。
楽しそう。絶対行きたい。
「…明日、13時。駅前」
俺の押しに負けた浅緋から、ついにOKが出た。
「…!わかった!あ、八束連絡先教えて!」
苦節約ひと月。ついに連絡先まで教えてもらった。
その日の帰り、兵助に思わず自慢した。
「兵助!!聞いて聞いて!明日八束と買い出し行ってくる!!」
兵助とは幼稚園からの仲だ。小中高と一緒で、いわゆる幼馴染。
浅緋を気になり始めた頃から、少しずつ話を聞いてもらっていた。
「あれ、そうなんだ。よかったね!誠ちゃん」
にこにことする兵助。本当に優しくていい奴だ。
「楽しんできてね。あとで様子聞かせて」
むしろ聞いてくれと頼むのは俺の方だろうに、自分のことのように喜んでくれる兵助に感謝した。
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翌日、約束通り、買い出しに向かった。
食材の買い出しなんて久しぶりだ。
小さい頃は、お菓子を買ってほしいから親について行ったが、年齢が上がるにつれて、だんだん頼まれたときの付き添いくらいでしか行かなくなった。
うちにはまだ小学生の弟と年中の妹がいる。可愛くて仕方ないが、スーパーでのおやつ買って攻撃には、毎度頭を悩ませるな…程度。思えばそれくらい、久しぶりだった。
浅緋は、慣れた様子で材料を買っていく。
一軒めのスーパーは、かなり少なめ。
「ここは他においてないものあったりするから」
物珍しそうにする俺に説明してくれた。
次は八百屋。
「らっしゃい!あれ、浅緋彼氏か?」
体格のいいおじさんが、浅緋に声をかける。
眉をひそめる浅緋に思わず笑いそうになりつつ、「浅緋の友達でーす!」と挨拶する。
おお、ちゃっかり名前で呼んじゃった。と内心少し恥ずかしくなった。
次は肉屋。背の低めな少し丸みを感じる奥さん。
「いらっしゃい。あら、浅緋のお友達?イケメンねぇ…コロッケ食べる?」
にこにことしたお世辞に乗せられ、ありがたく揚げたてのコロッケをいただいた。めちゃくちゃ美味かった。
最後に寄ったスーパーが一番の目玉らしい。
タイムセールの卵と、恐らく俺の分を見越しての米。
昔から、タイムセールは得意だ。目当ての卵を二人分取ってくると、きょとんとした顔で
「すごいな、お前…」と感心された。
ようやく買い出しを終えて、八束家へ向かった。
お茶でも飲んでいけと言ってくれたので、ありがたく上がらせてもらうと、お母さんが出迎えてくれた。
買い出しの礼にとホットケーキをご馳走してくれるらしい。
ちょうど腹も空いてたので、少し戸惑う浅緋を気にしつつ、お言葉に甘えることにした。
ちょこっと裏話。
誠治朗は1年2組、浅緋は1年3組なので、体育とか選択の合同授業なんかは一緒になりません。




