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気になる存在-side誠治朗


初めて浅緋(あさひ)を見かけたのは、高校に入学して数日のこと。

自分でも思うけど、俺はよく食べる。いわゆる成長期だ、なぜか食べても腹が減る。

中学までは給食だったため、早弁とか足りない分を購買で…なんてことは出来なかったけど、高校に入学してある程度は自由の利く休み時間。

新しい友達も早々に出来て、休み時間にちょっと早弁して。

足りない分を購買で買って食べようと向かっている途中、弁当の包みを持って、うろうろしている浅緋を見かけた。

別に食べる場所なんて教室じゃなくてもいいし、友達と待ち合わせとかなんだろうと勝手に思っていた。


だけど、次の日も、また次の日も。

浅緋は昼休みになると弁当を持って一人でふらっと歩いてどこかへ向かっていた。

隣のクラスなのは、すぐわかったけど、これと言って話しかける用もない。

ただ、数日そんな姿を見かけただけで、俺はなぜかすごく気になっていた。


部活で一緒になった浅緋のクラスメイトに、浅緋の名前を教えてもらった。

"八束(やつか)浅緋(あさひ)"

名前がわかると、ますます気になる。

移動教室、休み時間、放課後。

見かけると、つい目で追ってしまう。


そんな時、午前最後の授業直後、担任の木下先生に体育指導室に物を運んで欲しいと頼まれた。

二つ返事で頼まれた物を運び、少し昼休みにかかって指導室を出た時。

入口に立つ生徒がいた。

"八束浅緋"

俺が今、一番気になっている人物。

これは、話しかけるチャンスだ。


「あれ、ここに用事?木下先生、いま職員室だけど」


平静を装って声をかけた。少し怪訝な顔をされた気がする。


「あぁ、大丈夫。木下先生に許可もらってここで昼飯とらせてもらってるから」


なるほど。ここ最近あまりうろうろしているのを見かけなかったのはそういうことか。


「…へぇ」

「…それじゃ」


すごく素っ気なく、にこりともせずに入っていく。

ますます気になる。なんでここで…?

理由が知りたくて、口実のために購買へ走った。

いつもなら、どれにしようか悩むところだが、今日はそんな余裕はない。

適当にいくつかパンを見繕って、いつものおばちゃんに「あれ、今日はゆっくりなのね」なんて言われたけど

「うん!急いでるから!」と謎の返答をして、急いで引き返した。


入口には"木下に用のあるものは職員室まで"というプレートがかかっている。

なるほど、中には他の人が入らないように工夫してるわけだ。


プレートを無視して、ノックする。

応答はない。

少し間をおいて、もう一度。

つい先ほど、ここで昼飯を食べると聞いたばかりだ。こんな数分で居なくなるわけがない。


「あれ、もういないのかな。八束ぁ、いる?」


さすがに名指しで声をかければ出てくるはずだ。


待つこと数秒。ガチャっと鍵の開く音がした。


「………何か」


明らかに迷惑そうな顔の浅緋が出てきた。

「なぁんだ、いるじゃん!入っていい?」

変に悟られないように、自然な感じを装う。


「…飯まだ食い終わってないから、あと10分待って」

「え、俺も一緒に食べたいんだけど。昼飯」


思わず食い気味に購買の袋を持ち上げる。


浅緋の眉間に、一瞬しわが寄る。


「悪いけど、人と飯食うの嫌いなんだ」

「えぇ、せっかく走って買いに行ったのに」


なんだよ、という本音がこぼれた。

そんな俺を見て、浅緋が続けた。


「…ほんとに好きじゃないんだ。だから先生に了解得てここで食ってる」


申し訳なさそうに言ってくる顔をみて、噓はついてないと思った。


「…わかった。んじゃ、10分経ったらまた来るよ」


そう言って、俺はその場を後にした。

何か事情がある。10分待てば、中には入れそうだ。

ただ、多分あの様子じゃきっとすぐに立ち去る気がする。

それならば…と職員室に向かった。


「どうした尾浜」

木下先生に声をかけると、先生はちょうど弁当を食べているところだった。

「すみません、お食事中に。さっき生物準備室で、八束にあったんですけど」

「…ああ、八束にも頼み事したりするからな」

「あ、その。聞いたら八束があそこで昼飯食べてるって教えてくれたんですけど、なんか事情があるんですよね?一緒に食べたいって誘ったら10分待ってくれって言われて」


「ああ、そうか」

「俺、八束と仲良くなりたいんですけど、なんか警戒させちゃったみたいで。もしご迷惑でなければ、一緒に行っていただけないでしょうか」


教師だって、暇じゃないだろう。

ただ、少し強面なうちの担任は、今も手を止めて話を聞いてくれるような人だ。

何かヒントをくれるのではないか、とわずかに期待して先生の返答を待った。


「なんだ尾浜。友達を作るのは得意なように見えたが、あいつは難しかったか」

「…はい」

「わかった。どうせこの後向かうところだった。一緒に行くか」


笑ってそう言ってくれた。


少し先生を待って、一緒に生物準備室へ向かう。


「八束は、昔から人と飯を食べるのが苦痛らしくてな。昼飯食わずに寝てる、なんていうところをたまたま聞いて、なんだか放っておけなくて、こうして昼は場所を貸すことにしたんだ」

「そうだったんですか」

「どうやら食べているのを見るのは平気らしい。尾浜、それ食うなら少し離れたところで食ってやれ。慣れるまで少し時間がかかるやつだから」


こんなに生徒のことをよく見ている人だと思っていなかった。

わかりました、と返事をして一緒に中に入る。


予想通り、自分は済んだからと立ち去ろうとする浅緋を、先生はうまく引き留めてくれた。


少し離れた場所で、ようやく買ったパンを食べる。

今日は適当に選んだけど、このパン美味い。

先生と浅緋の雑談になんとなく相槌を打ちながら、いつものように食べていると、ふと浅緋の視線を感じた。

俺はちょうどまた一口頬張ったばかりで…。


「ハムスターみたいだな」


思わぬ一言に、思わずごくん、と飲み込んで


「え?」


と返した。


「あ、いや何でもない」


すぐにさっと視線をそらされた。

その様子を見て、木下先生がいつも美味そうに食べるよな、なんて声をかけてくれる。

そうですかぁ?なんておちゃらけて、先生にお茶をねだった。


食べ終わって、ようやく浅緋に近づいた。

そう言えば、まだちゃんと名前も伝えていなかった。


自己紹介をすると、素っ気なく浅緋も名前を教えてくれた。


ほんとは数日前から知ってた。

でも、やっと、一歩距離が近づいた気がして、俺は思わず微笑んだ。





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